2020年代に入り、日本の戸籍制度を「不要」とする声が、一部の有識者・言論人の間で目立つようになってきました。堀江貴文氏、辛坊治郎氏、古市憲寿氏、橋下徹氏らが、相次いで戸籍制度に対して批判的な見解を示し、戸籍不要論が突如“トレンド”のように噴き出す異様な空気も観測されています。
しかし、戸籍制度は日本社会において、ただの「古い制度」ではありません。治安維持や法秩序の基盤として、また家族関係や相続、国籍確認といった基本的な社会インフラを支える重要な役割を果たしています。
この制度をもし解体・廃止した場合、いったい誰が利し、何が失われるのか——その構造を冷静に見ていきましょう。
■ 戸籍制度が果たしている重要な機能
戸籍制度は、単なる「紙の記録」ではありません。日本社会の法的・社会的秩序の根幹として、複数の役割を同時に担っています。それぞれの機能は、日常生活から国家の統治機能に至るまで幅広く影響しており、これを廃止した場合の混乱やコストは計り知れません。
- 本人確認と成りすまし防止: 戸籍は日本人一人ひとりの「法的な出自と履歴」を一元的に記録した唯一の制度です。出生、婚姻、死亡などを通じて正確な本人確認ができるため、パスポートや運転免許証、住民票などの根拠資料として使われています。なりすましや偽造による金融犯罪・行政詐欺を防ぐための強力な盾となっており、国家としてのアイデンティティ管理の基盤です。
- 親子・婚姻関係の法的証明: 戸籍は親子関係や婚姻・離婚の法的根拠を明示する制度であり、遺産相続、養育費請求、婚姻の適法性確認などに用いられます。たとえば、ある子どもが誰の子か、婚姻関係にあったか否かが不明では、相続・裁判・行政手続き全般に重大な支障を来します。家族単位の法制度が依拠しているのがこの戸籍制度です。
- 治安維持・国籍管理: 日本国籍の保有者を明確に記録する仕組みとして、戸籍は出入国管理や不法滞在者対策、犯罪捜査にも活用されます。例えば、外国籍者の不正滞在の摘発や、犯罪者の国籍確認と身元特定にも活用されるなど、国家の安全保障と密接に結びついています。国籍制度とセットで機能していることから、制度を崩すとそのまま治安の空洞化にもつながりかねません。
- 制度的な一貫性の維持: 年金制度、住民登録、納税、医療保険、選挙権などの各種制度は、戸籍情報と連携することで成り立っています。住民票単体では証明しきれない情報——たとえば国籍、出生、親子関係の履歴——を補完するのが戸籍の役割です。制度間の整合性を保ち、行政の信頼性と正確なサービス提供を担保するために不可欠な柱といえます。
■ 戸籍制度の解体で“利する”可能性がある主体
戸籍制度の廃止や解体が議論される際には、しばしば「人権救済」や「制度から漏れた人々への配慮」といった建前が前面に出されます。しかし現実には、制度の空白や不備が生じれば、それを利用して利益を得ようとする勢力や主体が必ず現れます。
ここでは、戸籍制度の解体によって利する可能性のある主体を、思想的背景や実利面も含めて詳細に見ていきます。
1. 誘拐・人身売買など凶悪犯罪の活性化を狙う犯罪ネットワーク
戸籍制度が機能していることで、子どもの所在、親子関係、住居歴などが行政の管理下に置かれています。これは誘拐事件や児童売買が起きた際に早期発見・介入を可能にする非常に重要なインフラです。戸籍がなければ、子どもの身元確認が困難となり、養子縁組を装った売買や性的搾取、人身取引が行われやすくなります。これはすでに発展途上国などで多数報告されている問題であり、日本においても戸籍の空洞化が進めば、国際的な人身売買ネットワークのターゲットになりうる危険があります。また、無戸籍の子どもは学校や医療へのアクセスが困難になり、社会から隔絶された存在となることで、犯罪組織にとっては扱いやすい“見えない労働力”ともなってしまうのです。
2. 個人主義・反国家思想を持つ政治運動・市民団体
国家が人間の身分関係を管理することそのものに強く反発する層が存在します。戸籍制度を「家制度の名残」「家父長制の象徴」ととらえ、ジェンダー平等や自由の観点から廃止を主張する団体・運動が一定数あります。国家の一元的管理よりも個人の自由や社会的自認を優先すべきという理念に立脚しており、制度全体の解体を正当化しがちです。
3. 市民権・帰化・国籍取得を支援する一部ブローカーやビジネス
外国人や無国籍者に対する帰化・国籍取得の支援をビジネスとして行う業者の中には、制度の緩和によって手続きが簡易化されることを望む層も存在します。戸籍制度が厳格であるがゆえに帰化申請のハードルが高くなっている現状を逆手に取り、戸籍解体による“穴”を使って合法的に見せかけた不正取得を支援する構造も懸念されています。
4. 反社会的勢力や地下経済圏
戸籍がなければ警察も正確な身元を把握できず、なりすましや潜伏に最適な状態になります。無戸籍者や戸籍があっても所在不明な人物は、風俗業や特殊詐欺、違法就労などの労働力として利用されやすく、反社会的勢力にとっては“管理されない人材”として重宝される存在です。制度解体によってこうした人材プールが拡大するリスクがあります。
5. 特定外国政府や親和的な企業
戸籍制度の撤廃は、日本の主権的管理能力を削ぎ、政治参加や土地取得などの領域で外国勢力が介入しやすくなる可能性を秘めます。特に国籍管理が緩くなることで、二重国籍や偽装帰化などを通じた政治的影響力の行使が可能となり、国家の枠組み自体が揺らぐ懸念があります。
6. デジタルアイデンティティ至上主義者
ブロックチェーンやマイナンバーといった新技術で“国家管理”を刷新すべきという立場の人々にとって、戸籍制度は「時代遅れのレガシー」です。彼らは技術的な効率性を優先し、戸籍によって担保される親子関係や法的履歴といった“重層的な身分保障”の重要性を過小評価する傾向があります。 国家が人間の身分関係を管理することそのものに強く反発する層が存在します。戸籍制度を「家制度の名残」「家父長制の象徴」ととらえ、ジェンダー平等や自由の観点から廃止を主張する団体・運動が一定数あります。
■ 同時発言の“気持ち悪さ”の背景
2024年から2025年にかけて、堀江貴文氏、辛坊治郎氏、古市憲寿氏、橋下徹氏といった影響力のある論者たちが、相次いで「戸籍制度は時代遅れ」「もはや不要ではないか」といった主張を発信しました。これらの人物はいずれもテレビやネットメディアを通じて大きな発信力を持つ存在であり、一定の層に対する世論形成力も備えています。
短期間で複数のメディアインフルエンサーが同様の主張を発信するとき、自然発生的な議論の盛り上がりというよりも、「誰かが意図的にテーマ設定をしているのでは」という疑念が生まれるのは当然です。
特に以下のような点が違和感の要因として挙げられます:
- それぞれが個人主義的・リバタリアン的な思想傾向を持ち、国家による制度的管理に否定的である
- 戸籍制度の改善ではなく“全否定”に近い極論が短期集中的に語られている
- メディアやSNSを通じて、異口同音的に「戸籍=悪」のイメージを作る動きがみられる
これらが単なる偶然とは思えないとして、一部では「世論誘導的な仕掛けではないか」との見方も出ています。明確な指令系統やスポンサーがあるわけではありませんが、思想的に近しい者同士が、特定の社会制度に対して“連携的に批判を強める”動きは、情報戦略や政治的プロパガンダの典型的なパターンとも言えます。
特定の政党・団体の名指しは避けつつも、こうした“集中発信”の背後に、国籍政策、移民政策、あるいは技術至上主義といった上位のアジェンダがある可能性は否定できないでしょう。
短期間で複数のメディアインフルエンサーが同様の主張を発信するとき、自然発生的ではなく「誰かが意図的に仕掛けているのでは」という見方が浮上します。
- それぞれが個人主義的・リバタリアン的思想を共有している点は事実ですが、
- 発言のタイミングがあまりに近すぎる、
- 内容が政策提言というより“制度全否定”に寄りすぎている、
といった点から、政治的・思想的な共鳴というよりも「世論誘導」的な匂いを感じる人も多いのです。
背後に明確な指令系統があるかは定かではないものの、制度改変を求める“潮流”が意図的に作られている可能性も無視できません。
■ 結論:戸籍制度の廃止ではなく、柔軟な「見直し」を
戸籍制度には確かに問題点もあります。たとえば、非嫡出子差別の温床になる表記、DV被害者が逃げづらくなる構造、本籍制度の煩雑さなど、改善すべき点は存在します。しかし、これらの個別課題は制度そのものの存在意義を否定する理由にはなりません。
制度の“全廃”という極端な議論は、しばしば思想的・政治的に利用される懸念があり、治安・秩序・法的安定性の崩壊を招く危険を孕んでいます。
そこで必要なのは、以下のような段階的かつ現実的な制度改革です:
- 戸籍に記載される情報の見直し(例:非嫡出子表記の削除、親の婚姻歴の非表示化)
- 本籍地制度の簡略化や撤廃、引越し時の手続き負担の軽減
- マイナンバー制度との統合・連携強化による身分証明の簡素化と整合性強化
- 離婚後300日規定の見直し、無戸籍発生リスクの法的修正
戸籍制度は日本における国籍・身分・法的関係の核心インフラです。それを時代遅れと一蹴するのではなく、今の時代に合った形に再構築することこそが、日本社会の法治と公正を守る道筋と言えるでしょう。
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