広告 経済・投資

日本経済に迫る通商ショック:2025年1〜3月期GDPマイナス成長と生活実感の悪化

 

2025年5月16日、内閣府が発表した1〜3月期の実質GDP速報値は年率換算で0.7%減となり、4四半期ぶりのマイナス成長に転じました。個人消費の弱さと外需の不透明感が背景にあり、とりわけ生活必需品価格の上昇と実質賃金の低迷が家計を直撃しています。本稿では、速報値の中身と背後にある経済構造を読み解き、今後の通商政策リスクにも目を向けます。

1. GDP速報値の要点

  • 実質GDP:前期比▲0.2%、年率▲0.7%
  • 個人消費:前期比+0.04%(実質横ばい)
  • 設備投資:+1.4%と堅調
  • 輸出:▲0.6%と4四半期ぶりの減少
  • 輸入:+2.9%と大幅増
  • 内需寄与:+0.7pt、外需寄与:▲0.8pt

2. 消費が伸びない理由

個人消費の横ばいには、生活実感の悪化が強く影響しています。2025年3月までの実質賃金は前年同月比で3か月連続のマイナス(3月は▲2.1%)。名目賃金が増加しても、物価(特に食料・光熱費)の上昇に追い付かず、家計の可処分所得が圧迫されています。

さらに、ウクライナ南部での戦闘継続や農業地帯の支配状況が穀物供給不安をもたらし、円安とあわせて輸入食料の価格が上昇し、主食であるコメを含む食品全般の値上がりが続いています。このようなコストプッシュ型インフレ下で、家計は生活防衛志向を強め、消費よりも貯蓄や支出抑制を優先しています。

3. 外需悪化の背景(1〜3月期時点)

米国の関税政策が4月から開始されたため、今回の1〜3月期GDPには直接影響していません。ただし、以下の要因がすでに外需を下押ししていました:

  • 米中摩擦の再燃:資本・技術規制強化で需要減退
  • 欧州の景気減速:ドイツ・フランスの実質リセッション入り
  • 米国利上げ長期化:ドル高で新興国経済にも悪影響
  • 輸入コスト増:原油・資源・物流コストの高騰

こうした影響により輸出は減少、輸入は増加し、外需の成長寄与はマイナスに転じました。

4. トランプ政権の関税政策と今後の通商リスク

2025年4月2日、米トランプ政権は全輸入品に一律10%の関税を課す「相互関税」を開始しました。さらに、日本製自動車と部品には25%の追加関税がかけられており、日本の基幹産業に深刻な影響が及びつつあります。

■ 相互関税の構造

  • 一律10%関税は恒久措置(全品目)
  • 自動車関連には別途25%上乗せ(凍結対象外)
  • 非自動車品目は90日間の凍結中(7月以降解除リスク)

5. 自動車産業への影響

  • 自動車は日本のGDPの約10%、輸出の約15%を占める中核産業
  • 完成車・部品への関税で北米現地生産への圧力が強まり、国内の空洞化が加速
  • トヨタ・ホンダ・日産など主要企業の業績下振れリスク
  • 自動車株の下落が日経平均の重荷に

6. 次期(7月以降)のリスクシナリオ

  • 凍結措置の解除 → 相互関税が全面再開の恐れ
  • 自動車関税率の引き上げ(25%→30%以上)
  • 非関税障壁(米国生産義務化、認証制度強化など)
  • 日本の輸出産業に構造的打撃、為替市場の不安定化

7. 政策対応と展望

政府はWTO提訴と中小企業支援制度の強化を進めていますが、影響を緩和するには時間がかかります。日銀も追加利上げ観測を後退させており、再び金融緩和的姿勢が強まる可能性があります。

8. 4〜6月期はさらに悪化する可能性

4月以降に実際に発動された関税(自動車25%、その他10%)の影響が、今後の4〜6月期GDPに本格的に反映される見通しです。とくに自動車は輸出の主力であるため、米国向け出荷の鈍化・現地在庫調整・設備投資見直しなどが重なると、GDPのさらなる押し下げ要因となる可能性があります。

個人消費も依然として物価高と実質賃金のマイナスが続くなかで改善の兆しは見られず、4〜6月期は「1〜3月よりも厳しい結果」となるリスクも否定できません。

9. 日銀は利上げできる局面ではないのか?

日銀は2024年末にマイナス金利を解除し、さらに2025年1月には追加利上げを実施しました。これは物価上昇の持続と経済回復への一定の期待を背景にしたものでしたが、ここにきて再び金融政策の方向性が問われています。

1〜3月期のマイナス成長、実質賃金の低迷、消費の弱さなどから、次の利上げの余地は狭まり、むしろ「一時停止」や「据え置き」が市場の基本シナリオとなりつつあります。

インフレは依然として続いていますが、それが需要ではなくコストプッシュ型によるものである以上、利上げによる抑制効果は限定的。日銀は今後、企業収益や家計消費に配慮した慎重な政策運営を迫られる局面に入ったといえるでしょう。

10. 日本経済と株式市場への影響

今回のGDPマイナス成長や通商リスクは、実体経済だけでなく金融市場にも波及しています。とくに、輸出依存度の高い企業群を中心に、業績懸念が強まりつつあります。

日経平均株価は2025年4月以降、自動車株の下落を主因として伸び悩んでおり、今後は他の輸出関連銘柄や製造業にも連鎖的な売り圧力が広がる可能性があります。為替相場でも円安が進む一方で、インフレ長期化が金融政策対応を難しくし、市場全体のボラティリティ(変動性)が上昇傾向にあります。

特に中小型株や内需系企業にとっても、消費低迷が重しとなり、広範なセクターに慎重な投資姿勢が広がっています。今後の企業決算や景気指標によっては、株価の下振れ圧力がさらに強まる局面も想定されます。

まとめ

1〜3月期のマイナス成長は、コストプッシュ型インフレと外需環境の悪化が重なった結果です。トランプ政権による関税政策はまだ本格的には反映されていないものの、今後の通商環境には重大な警戒が必要です。日本経済は「消費停滞」と「外圧」の板挟みの中で、次の一手が問われています。

#日本経済 #実質賃金 #コストプッシュ型インフレ #個人消費低迷 #2025年GDP #自動車関税 #通商政策 #トランプ政権 #相互関税 #外需悪化

 

-経済・投資