国民民主党はこれまで、「現実的・改革志向・対話型野党」として、一部の無党派層や中道支持層から一定の支持を得てきた。SNS上では、代表・玉木雄一郎氏を中心に「声を聴く力」を重視した政策対話が行われ、「立憲民主とは違う」という差別化にも成功していた。
とくに2021〜2024年の間、立憲民主党の姿勢が「理想論的」「旧体制的」と批判される中で、国民民主党は「現実的な提案ができる野党」として信頼を集め、2024年の衆院選では28議席、うち比例17議席という成果をあげた。こうした上昇気流の背景には、SNSでの機動的な広報、若者世代への訴求、そして何より「支援者との距離の近さ」があった。
しかし、2025年の参議院比例代表候補の擁立に際して、その姿勢が大きく揺らいだ。山尾志桜里(菅野志桜里)氏、須藤元気氏、足立康史氏らを含む4人の擁立が発表されると、SNS上では以下のような批判が噴出した:
- 山尾氏:W不倫疑惑、親権問題、政治家活動時の姓の使い分け、不正とされるガソリン代問題。「清廉な政治」との乖離が問題視された。
- 須藤氏:反ワクチン・陰謀論的言動、科学的根拠の否定、医療従事者からの強い反発。特に医療界からは「健康リスクを助長する人物」との批判も。
- 足立氏:暴言履歴(玉木代表への「サル」発言含む)、極端な増税論、過去の党内外トラブル。「維新より過激な言動を繰り返した人物になぜ公認を出すのか」と疑問が集中した。
これに対して国民民主党の榛葉幹事長は「比例代表なのだから、嫌なら入れなければいい」と発言し、対話性の放棄と受け止められた。これは、従来の「双方向性」を大切にしてきた党の姿勢とは明らかに異なり、多くの支持者にとって「一線を越えた」瞬間だった。
1. 支持母体(連合)の影響力の強化
比例候補の人選には「連合」の意向が強く影響しているとされる。国民民主党は民間労組中心の連合から厚い支援を受けており、その組織票・資金力・人材推薦力は無視できない。
とりわけ比例代表選挙は、知名度や地域活動に依存しにくく、組織票と支援母体の推薦力がものを言う領域だ。立憲民主党と候補者調整を行う中で、連合系の人物やその推薦を受けた人物が、党内の十分な議論を経ずに擁立された可能性がある。
その結果、連合の支持方針に沿った人物が前面に出る一方、党本来の支持層や世論との乖離が生じている。
2. 玉木代表のトップダウンと比例票拡大戦略
玉木雄一郎代表は、2024年衆院選の成功を受け、2025年参院選で「比例1000万票構想」を掲げた。これは、従来の“地域基盤型”から“全国比例票獲得型”への大転換を意味する。
この目標達成のため、知名度があり話題性のある候補を擁立する方針が採られたと見られる。特に山尾氏、須藤氏、足立氏は、メディア露出や既存支持者層の厚みではなく、“票田としての属性多様性”に期待されていたと考えられる。
山尾氏は女性票や憲法論議層、須藤氏は若年ネット層・格闘技ファン、足立氏は保守・維新系の支持層というように、各人に期待される“票田”が存在する。党幹部の間では、これらを補完しあう構成とすることで、全国比例での総得票を最大化する戦略が組まれていたと見られる。
しかしこれは「党の理念や倫理観と合致しない人物」であっても擁立可能という姿勢を内包しており、「選挙のために節を曲げた」という印象を与えた。
3. 組織の拡大と現場感覚の喪失
党勢拡大に伴い、国民民主党は政党交付金も潤い、スタッフ・地方議員も増加した。しかし、その過程で「SNSにおける丁寧な説明や応答」「現場の声に耳を傾ける姿勢」が薄れていったとの指摘がある。
SNSでの発信も、かつては玉木代表をはじめとする幹部が、個々のリプライに丁寧に応じ、信頼を醸成する武器だった。しかし最近では「一方的な告知型発信」へと変化し、双方向性の象徴だったリプライや質疑応答の姿勢が見られなくなっている。これも「現場感覚の希薄化」として一部の支持者には強く映っている。
とくに今回の比例候補発表では、「なぜこの人選なのか」の説明責任が果たされず、「現場の空気」を無視したかのような印象を与えた。SNS上での応答も鈍くなり、「声を聴く力」の象徴だった玉木代表への信頼も揺らいでいる。
4. “声を聴かない党”への逆転現象
今回の候補者擁立にあたり、党の公式広報や幹部からの丁寧な応答は一切見られず、SNS上の疑問や批判に対して説明責任を果たそうとする動きはなかった。かつての「声を聴く党」とは対照的な姿勢が顕著だった。
SNSでは、
- 「須藤元気が公認なら医療従事者としてもう応援できない」
- 「足立康史の過去の暴言を許すのか」
- 「山尾氏の不祥事があった上で、なぜまた比例で登場するのか」
といった投稿が急増した。これに対して党執行部が説明を出すことはなく、「一方的な押しつけ」との反発が拡大している。
この背景には、「比例代表だからこそ多様な声を拾うべき」とする考え方と、「比例代表だからこそ有権者が選べないから責任を持って選んでほしい」という矛盾した期待がある。
榛葉幹事長の「嫌なら入れなければいい」という発言も、こうした不信を一層加速させた。
結語:支持層の分裂と未来への試練
2025年の比例代表擁立をめぐって、国民民主党は本来の支持層との乖離を深めつつある。短期的な比例票拡大を狙う戦略が、長期的なブランド毀損を招くリスクを孕んでいる。
とりわけ、「支援者との距離感」がかつてないほど浮き彫りになっており、「対話型野党」という国民民主のアイデンティティが問われている。
この状況が一時的なものか、それとも党の構造的変質の始まりなのか――有権者と党の対話が回復できるかどうかに、その未来はかかっている。
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