れいわ新選組が掲げる看板政策「最低賃金1500円・全国一律」は、今も同党の中心的な主張のひとつだが、実現にはさまざまな論点が絡んでいる。現状や他党の立場、そして将来の可能性について整理する。
■ 現在の最低賃金水準
2024年度の全国加重平均最低賃金は1,055円。過去最大の引き上げ(+51円)となったが、東京都(1,163円)と秋田県(951円)では200円以上の差があり、地域格差が依然として大きい。
最低賃金制度は、各都道府県の労働局が決定する「地域別最低賃金」が基本となっており、都市部と地方で大きな賃金差が生まれている。この格差が地方から都市への労働移動を加速させ、結果として地方の人口減少と雇用崩壊につながっているとの指摘もある。こうした構造問題の是正を掲げて、れいわは「全国一律」の導入を主張している。
■ れいわ新選組の構想と財源
れいわは「人間らしく暮らせる水準」として、時給1500円(月収換算で約25万円)を提唱。現在の最低賃金水準ではフルタイムでも月収17〜18万円程度にとどまり、家賃や教育費を考慮すると生活困窮から脱しきれない層が多いとされる。
財源としては、
- 消費税廃止:逆進性が高く、低所得者層に不利な税制度の見直し
- 法人税・金融所得課税の強化:内部留保や高所得層への課税強化による再分配
- 積極財政(国債発行):経済成長と雇用創出を優先した財政支出
- 中小企業への人件費支援:補助金、減税、社会保険料の国負担などで賃上げ支援
これらを組み合わせ、特に中小企業への直接支援を柱に据えることで、最低賃金引き上げのショックを吸収する構想である。
■ 他党の方針と違い
- 自民党(石破政権):2020年代に全国平均1500円を目指すとするが、地域別制度を前提とした段階的引き上げ。賃上げの主体は民間に委ね、国は補助的役割にとどまる。
- 公明党:5年以内に加重平均1500円を掲げるが、同様に段階的。中小支援を重視。
- 共産党:れいわと同様に全国一律1500円を主張。消費税廃止や富裕層課税強化を財源とする。
「全国一律」という点では、れいわと共産が最も積極的。他党は地域差を踏まえた漸進的対応を取る構えである。
■ 地方経済への懸念
- 日本商工会議所調査(2023年):地方の小規模企業の約25%が「対応困難」、20%が「廃業を検討する」と回答
- 地域によっては物価や購買力が低く、現行水準ですら厳しい状況。賃金1500円は固定費として重くのしかかる
- 雇用削減や非正規雇用への切り替えなど、逆に労働環境の悪化につながる恐れもある
このため、政策導入には「段階的な引き上げ」「中小企業の経過措置」「価格転嫁の法的整備」など、精緻な制度設計が不可欠となる。
■ 2035年目標なら現実味が出てくる
2029年までに1500円を達成するには、年平均+89円が必要。これは現在の上昇ペースの約2倍。
一方で、2035年までの11年間であれば、年+40円程度で到達可能。これは直近の年平均(+30〜50円)と一致しており、実現可能性が高まる。
- 財源確保の時間が取れることで、安定的な制度運営が可能に
- 補助金や助成金などの企業支援スキームも段階的に構築できる
- 地方経済や中小企業への急激な打撃を避けながら、柔軟な導入が可能
- 社会的合意の形成にも時間をかけられる(経済団体・自治体・労働界との調整)
段階的導入(都市部→地方)や地域ブロック制(例:関東・東北などを同一水準化)など、妥協策の提案も現実味を帯びる。
■ 実現した場合のポジティブ効果
- 消費の活性化: 最低賃金の大幅引き上げにより、最も消費性向の高い低所得層に現金が回ることになる。これは単なる生活防衛にとどまらず、地域商店街やサービス産業、飲食、教育、文化などへの支出拡大を促す。特に地方においては、今まで消費余力のなかった層が動き出すことで、地元経済に新たな循環が生まれる可能性がある。
- 働くことの希望回復: 「働いても暮らせない」という閉塞感が払拭され、労働の価値が再評価される。とりわけ若年層やシングルマザー、フリーター層にとって、フルタイム労働が「生活再建の土台」となり得る点は大きい。結果として、就業意欲の向上や職業訓練・スキルアップへの投資意欲の増加も期待される。
- ブラック企業の淘汰: 最低賃金の引き上げにより、これまで最低限の賃金すら払わずに雇用を維持していた企業の経営が困難になる。これは一時的に事業撤退を招くリスクを伴うが、長期的には「まっとうな労働環境を整えられる企業」だけが市場に残る構造への転換を促す。労働者の健康被害・メンタル不調の減少など、間接的な社会保障費の削減にもつながる可能性がある。
- 格差是正: 最低賃金の底上げは、特に非正規雇用が多い女性、若年層、外国人労働者、障がい者などの待遇改善に直結する。これまで時給900〜1000円で働いていた層にとって、1500円は単なる賃上げではなく「社会的再評価」として機能する可能性がある。家計内での役割変化や子育て環境の向上、教育機会の拡充などにも波及することが見込まれる。
■ 結論
最低賃金1500円の全国一律化は、現状のペースでは2029年までの実現は困難だが、2035年を目標とすれば政治的・経済的整合性が取れた改革となる。段階的導入や中小企業支援を並行すれば、現実的な目標となりうる。
また、同政策は単なる労働政策にとどまらず、日本社会の再構築につながる「希望の連鎖」の起点ともなり得る。「夢物語」ではなく、堅実な中期ビジョンとして他党も議論に加わるべきタイミングが来ている。