こども家庭庁は2025年、性や妊娠に関する正しい知識の普及を目的に、「プレコンサポーター」を5年間で5万人養成する方針を発表した。これはプレコンセプションケア(妊娠前からの健康管理)の一環として、若年層の性教育を拡充するための全国的な取り組みである。
しかし、果たしてこの政策にどれだけの必要性と現実性があるのだろうか。以下、各視点から検証する。
▶ 政府の目的と主張
こども家庭庁は、この政策を通じて若者の性と生殖に関する知識不足を補い、将来的な妊娠・出産に対する準備や健康管理への意識を高めたいとしている。特に、妊娠適齢期の理解、避妊や性感染症への正しい知識を持たせることで、望まない妊娠や不妊への予防効果を期待している。
また、プレコンサポーターが学校や地域に出向き、出前講座や個別相談を通じて若者にアプローチすることで、医療機関への相談がしづらい層にも情報を届ける役割を担うとしている。
▶ 問われる必要性:「なぜ5万人も必要なのか?」
この政策で最も疑問視されているのは「5万人」という規模である。妥当性を示す実証的なデータやモデルケースの提示が乏しく、国民にとっては“数字ありき”に映ってしまう。
すでに教育・医療現場には保健師・助産師・養護教諭など性と健康の専門職が配置されており、追加で毎年1万人規模の養成が本当に必要なのかには疑問が残る。しかも、全国への配置・研修・運用には相応の人件費と組織運営コストが伴い、公費数十億円規模の予算投入が不可避とされる。
▶ 現場と家庭の反発リスク
性教育は非常にセンシティブなテーマであり、保護者の思想や宗教、地域文化によって強い反応を呼ぶことがある。特に「0歳児からの性教育」「園児向けプライベートゾーン教育」などが含まれることで、親の教育権への介入と受け止められる可能性もある。
また、学校現場での出前授業導入にあたっては、教育委員会や保護者会との調整も不可欠となる。説明不足のまま外部講師が訪問すれば、信頼関係を損ね、むしろ性教育そのものへの忌避感を生むおそれもある。
▶ 他の対策との優先順位は?
少子化対策として見ると、まず直面している課題は「育てにくさ」「産みにくさ」である。
保育所不足、教育費負担、医療・出産費の自己負担など、今まさに当事者が直面しているボトルネックが多数存在する。そのような中で、5万人の支援者を育成し、周知と講座の提供を行うという“周辺支援”に巨額の予算を投じることが、果たして最優先課題なのかは慎重に検討されるべきである。
現場では、性教育よりも「出産費が高くて病院が選べない」「保活ができず職場復帰が困難」といった悲鳴のほうが多いのが実態である。
▶ 結論:必要性は否定しないが、規模と優先度は見直すべき
性や妊娠への理解を深めること自体は否定されるべきではない。若年層が主体的にライフプランを描けるようにする支援の必要性も明らかだ。
しかしながら、5万人規模でのプレコンサポーター養成は、制度として肥大化する恐れがあり、費用対効果の不透明さも拭えない。少子化という深刻な国家的課題に向けるリソースとしては、より直接的で即効性のある支援(保育、出産、教育費補助など)に優先的に充てるべきとの視点が不可欠である。
制度として取り組むのであれば、モデル地区での小規模検証、実証データの蓄積と透明な報告、そして家庭や地域との丁寧な対話を前提とすべきだ。
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