◆導入:知らぬ間に削られる「家族の保険」
政府が今国会に提出した年金制度改革法案。この法案には、新聞報道などであまり報じられていない重大なポイントが含まれています。それが「遺族年金の大幅削減」です。
遺族年金とは、家族の大黒柱に万が一のことがあった際、残された配偶者や子どもが生活に困らないように支給されるお金。いわば、公的な生命保険のような制度です。
しかし今回の法改正により、この「保険」が極めて短期間しか支給されない仕組みへと改悪されようとしています。
◆現行制度:夫の死後、生涯にわたって支給される「遺族厚生年金」
現在の制度では──
夫に先立たれた30歳以上の妻には、
夫の厚生年金(報酬比例部分)の4分の3が、
生涯にわたって支給される。
これは、子どもがいない場合でも同様です。
つまり、長年夫が払い続けた保険料が、遺された配偶者の生涯の生活を支える役割を果たしていたのです。
◆法案の変更点:60歳未満の妻は「たった5年」で打ち切りに
ところが今回の法案には、以下のような給付期間の短縮が盛り込まれています。
改正のポイント
これまで「5年間の支給対象」は30歳未満の妻だけだったが…
2028年4月以降は、段階的に対象年齢を引き上げ
2028年:40歳未満
2033年頃までに:50歳未満 → 60歳未満まで拡大
最終的に、「60歳未満の妻は、遺族年金を5年間しかもらえなくなる」
◆どれくらい減るのか?「2336万円 → 365万円」の衝撃
あるケースでは、仮に生涯にわたって支給されるはずだった遺族年金の総額が約2336万円になると見積もられています。それが、「5年間限定支給」になると、わずか365万円に。
※これは年金支給額15万円/月×12ヶ月×5年=900万円弱からもさらに減るケース。
実際には、遺族年金の再計算や生活環境によりさらに下がる場合もあると指摘されています。
◆背景にあるのは「基礎年金(1階部分)の危機」
このような削減の背景には、政府が実施した2024年の年金財政検証があります。そこでは、以下のような見通しが示されました。
現行制度のままでは、基礎年金(国民年金)がどんどん下がる
2057年には、現在より30%も支給水準が低下
特に非正規雇用が多い「氷河期世代」に打撃
政府はこの危機に対し、「厚生年金(報酬比例部分)」から財源をまわすことで、基礎年金の底上げを図ろうとしています。つまり、**一部の人の年金を減らして、別の人を助けようとする「再分配」**が始まっているのです。
◆問題点:「保険料を払ってきたのに、保障が減る」のはアリなのか?
社会保険労務士の北村庄吾氏はこう語ります。
「公的年金は“保険”です。民間の生命保険で、保険料を払い続けてきたのに、ある日突然『給付は5年だけです』と変更されることが許されるでしょうか?今回の制度改正は、それとまったく同じ構造です」
◆今後の影響:誰がどこで困るのか?
共働き世帯では、配偶者死亡時の家計の支えが消える
専業主婦世帯では、老後の生活設計が崩れる
若い夫婦層ほどリスクが高まる(30代・40代が5年限定の対象に)
◆結論:「知らなかった」では済まされない大改悪
今回の制度改正は、遺族年金という「最後のセーフティネット」が実質的に廃止されるに等しい内容です。しかも、報道ではあまり大きく取り上げられていません。
老後資金の不安に加えて、もしもの時の備えまで削られる時代。保険としての公的年金の役割を見直す必要があるかもしれません。