広告 政治

備蓄米90万トン放出の裏で高まる南海トラフリスク──小泉農相の人気取り政策は“稀代の大失政”となるか

 

■ 導入:物価対策の裏で失われる「備え」の本質

2025年6月、コメ価格の高騰を受けて政府が備蓄米を追加放出するという決定を下した。これにより、備蓄米は当初の約90万トンから、わずか10万トンを残すのみとなった。表向きは「生活安定」だが、その裏には選挙前の人気取りや短期的パフォーマンスを優先する政争の側面も見え隠れする。だが、今一度思い出すべきは、備蓄とは“平時の価格調整弁”ではなく、“有事の命綱”だという原則である。


■ 「なぜこのような時に?」——それが天災・有事の本質

◆ 有事は予測できない

地震も冷夏も戦争も、「タイミングを選ばず、えてして最悪の時にやってくる」のが常である。だからこそ、政府の備蓄は「市場調整のための在庫」ではなく、“絶対に使ってはいけない最後の砦”であるべきだ。平時の物価対策の名目で放出し尽くした直後に大規模災害が起これば、取り返しのつかない事態を招きかねない。


■ 南海トラフ地震だけではない「複合災害リスク」

リスク概要
冷夏・凶作1993年の平成の米騒動のように、冷害で収穫量が激減する可能性がある
南海トラフ巨大地震最大32万人死亡・経済被害220兆円、広範囲で食料供給が遮断される想定
物流網の遮断地震や戦争、パンデミック、港湾ストなどで国内物流が機能不全になるリスク
地政学リスク台湾有事、ホルムズ海峡封鎖、世界的食料危機などの影響で輸入が滞る可能性
備蓄再構築の困難放出後の再備蓄には時間と予算がかかり、次の危機に間に合わない可能性

これらは単独でも深刻だが、同時発生すれば致命的である。備蓄とは、こうした「想定外の連鎖」に耐える最後のセーフティネットである。


■ 問われる「本来の備蓄政策」

政府が備蓄米の放出を正当化する根拠として挙げたのが、東日本大震災時における備蓄米の使用量である。当時は約4万トンの備蓄米が放出されたとされており、それを踏まえて「10万トン残っていれば大丈夫」との説明がなされている。

しかし、これは極めて楽観的な見積もりである。たとえば、南海トラフ巨大地震の被害想定と比較すれば、その差は歴然としている。

比較項目東日本大震災(2011年)南海トラフ巨大地震(想定)
死者数約2万人約32万人
被災人口約400万人約3200万人
経済被害約17兆円約220兆円
備蓄米放出台数約4万トン単純比較で8倍以上が必要 になる可能性

このような差を無視し、過去の事例だけを根拠に現行の備蓄水準を正当化するのは、あまりにリスク認識が甘い。

小泉農相は「10万トン残っていれば大丈夫」と説明したが、それは東日本大震災レベルの話に過ぎない。南海トラフや複合災害に備えるには、

  • 10万トンでは明らかに危険水準であり、
  • 備蓄の本来の目的(国民の命と暮らしのセーフティネット)を損なう恐れがある。

さらに、

  • 放出後の再備蓄スケジュール
  • 今後の需給見通しとリスクシナリオ
  • 発災時の供給体制の見通し

などについての説明責任が果たされていない。

また、小泉農相の今回の行動は「国民の生活安定」という建前があるものの、選挙前の人気取りを意識した政争であった可能性が否定できず、その結果、国の安全保障を損なう稀代の大失政となる恐れがある。


■ 消費者保護か、国家防衛か —— 二者択一ではない「第三の視点」

物価高で「安価なコメを流通させるべきだ」という考え方も理解できる。
しかし、備蓄米の放出ではなく、

  • 緊急輸入枠の活用
  • 民間備蓄の奨励と補助
  • 低所得層向けの限定的な対策

など、**本来の備蓄に手を付けない“代替策”**も検討できるはずである。

「国民に安く届ける」という美名の裏で、国家の安全保障が削られていないか?
この視点こそ、今の日本に最も求められているものである。

-政治