2025年8月に投開票が予定されている横浜市長選挙。そのなかで注目を集めているのが、元長野県知事であり作家としても知られる田中康夫氏の立候補だ。前回(2021年)の選挙でも約19万票を集め、今回が2度目の挑戦となる。
田中氏の選挙戦で目立つのは「車座集会100回以上」「市民とともに政策を作る」といった姿勢だが、ふわっとした「市民の声を聴く」だけではない。実際には2025年6月2日に発表された政策には、具体的な行政改革や税制度の見直しなど、実務的な内容が含まれている。
■ 中核政策1:横浜みどり税の即時廃止
田中氏が最も明確に打ち出しているのが「横浜みどり税の廃止」だ。
この税は、市民税の均等割に上乗せされる形で年間約900円が課されている。導入当初から「実質的な増税」との声もあり、市民負担軽減の象徴として田中氏はこの税の即時撤廃を主張している。制度の見直しだけでなく、「使途の不透明さ」や「徴収方法の非効率性」も問題視しており、改革の出発点として位置付けている。
■ 中核政策2:行政の動脈硬化を打破する改革
田中氏は「横浜市は潜在力があるのに、行政が動脈硬化を起こしている」と発言。これを踏まえ、以下のような施策を提起している:
- 部局間の情報共有の強化(庁内DX推進)
- 文書主義の見直し、手続きの簡素化
- 市職員の人事透明化と適材適所の再配置
- 市民対応の即応性向上
「脱お役所仕事」というスローガンのもと、行政組織の再構築を目指す方向性だが、これは長野県知事時代の改革姿勢と通底しているとも言える。
■ 市民対話は手法であって目的ではない
田中氏が強調する「車座集会100回以上」は、あくまで政策形成の手段として位置付けられる。田中氏の真意は、「決まった答えを押しつける政治ではなく、現場の知恵を吸い上げる政治」にある。
ただし、現時点で発表された政策の中で、横浜みどり税以外の財源・制度設計に関する具体性は乏しく、詳細な設計図の提示は今後の課題といえる。
■ 政策の評価と今後の焦点
田中氏の政策は一見すると理想主義的に見えるが、行政現場の構造改革を訴える点で、実務的な関心を引く内容も多い。
評価ポイント:
- 明確な税制見直し(みどり税廃止)はインパクトがある
- 行政改革の方向性は明快で一貫している
課題ポイント:
- 他の政策(交通・福祉・教育など)の財源設計が不明
- 政令市の大規模組織を短期で動かす現実性は未知数
■ まとめ:理念と実務の“中間”にある田中ビジョン
田中康夫氏の政策は、「市民とともに行政を変える」という理念と、「脱お役所的組織」という実務的な目標の中間にある。
みどり税廃止を起点とした改革の実現性、そして残る19項目の政策がどこまで現実に落とし込まれるのか。今後の討論会や報道での掘り下げが待たれるところだ。
(本記事は2025年7月時点の公開情報に基づいて執筆しています)