はじめに
東京23区内の火葬場を運営する東京博善が、2025年4月より「区民葬」から離脱し、火葬料金を大幅に引き上げることが波紋を呼んでいます。報道では「高すぎる」「中国資本のせい」といった批判が目立ちますが、問題は単純ではありません。本記事では、今回の値上げを正しく理解するための3つの視点から整理します。
1. 公営は安い=善ではない
公営火葬場の料金水準
- 東京23区内の公営火葬場は、火葬料金が 4万4千円〜6万円程度のケースが多く、無料や数千円といった例はほぼありませんが、他の自治体では極端に安いケースも多く見られます。
- 一方、東京博善が運営する火葬場では、2025年4月以降 8万7千円に設定されます。
安すぎる公営料金がもたらす問題
- 公営施設は設備更新費用を税金で賄っているため、料金を低く維持できる構造があります。
- しかし、公営料金が過剰に安すぎると、民間事業者の競争力を奪う結果になりかねません。
- 民間の火葬場が撤退すれば、最終的に選択肢が減り、公営に依存せざるを得ない構造が生まれます。
適正価格とは
公共性は重要ですが、「公営だから安いべき」という発想だけでは、市場原理が働かなくなります。公営・民営のバランスを取り、持続可能な価格水準を設計することが重要です。
2. 値上げ=悪ではない
2024年の値上げと今回の違い
時期 | 値上げ内容 | 対象 | 性質 |
---|---|---|---|
2024年6月 | 約5.9万円 → 約9万円 | 全利用者 | 基本料金の底上げ |
2025年4月 | 区民葬5.96万円 → 8.7万円 | 区民葬利用者のみ | 制度離脱による補助廃止 |
- 2024年:燃料費高騰や設備維持費を理由とした、ベース料金の値上げ。
- 2025年:区民葬という割安な制度そのものを廃止した結果、実質的な負担増。
需要と供給の観点
- 東京23区は人口密度が高く、火葬場の需要は安定しています。
- 民営企業として利益を追求することは、民主主義経済において自然な行為です。
- 利用者にとって「高すぎる」と判断されれば、他の火葬場を選ぶ行動が促されます。これもまた市場原理の一部です。
3. 中国資本問題は切り分けて考える
よくある誤解
「中国資本に買収されたから値上げした」
確かに、東京博善は2021年に廣済堂グループから中国系投資ファンドMBKパートナーズの傘下に入りました。しかし、今回の値上げをすべて「中国資本のせい」にするのは誤解です。
本質は市場構造にある
- 東京博善は23区内9カ所のうち 6カ所を運営しており、事実上の寡占状態。
- 競争相手が少ないため、高い価格設定が可能という市場構造が問題の核心です。
- 親会社が国内企業であっても、同じ市場条件なら同様の値上げは行われた可能性が高いと考えられます。
まとめ:誤解を解く3つの視点
誤解 | 正しい視点 |
公営は安いほうが良い | 公営料金が安すぎると民営競争力を奪う危険がある |
値上げは悪 | 適正価格を探る過程での値上げは必ずしも悪ではない |
中国資本だから高い | 本質は寡占構造と需要供給バランスにある |
東京博善の火葬料金問題は、単純な「高すぎる vs 中国資本」の構図では語れません。
重要なのは、公共性と市場原理のバランスをどう取るか、そして持続可能な価格設定をどう構築するかという本質的な議論です。