山形県の強豪・酒田南高校で、野球部員が同部員に暴力を振るう動画がSNSに投稿され、野球部が活動停止となった。動画には、寮内での暴力や服を脱がされる様子が映っており、学校側は削除を依頼、県教委や警察への報告も行ったという。投稿は10月7日、撮影は夏頃と見られている。
この事件は、つい先日の広陵高校での寮内暴行問題に続くものだ。甲子園常連校の名門でありながら、またも「寮」という閉ざされた空間で起こった暴力。高校野球が抱える構造的な闇が、改めて浮き彫りになっている。
■ 閉ざされた“寮”という温床
寮生活は、厳しい上下関係が自然に生まれやすい環境だ。監督や外部の目が届きにくく、先輩後輩のヒエラルキーが強固に固定される。暴力が「指導」や「伝統」として黙認される構造も残っている。
動画には複数の部員が映り込んでいたという。つまり、“見て見ぬふり”の文化が根深いことを示している。強豪校ほど、結果重視・上下絶対の意識が強く、暴力を止める勇気が持てない風土が形成されがちだ。
■ 高野連・学校処分の限界
広陵事件の際も議論になったのが、処分と再発防止策の曖昧さだ。現行の高野連基準では、「厳重注意」や「一定期間の活動停止」など軽処分に留まることが多く、組織的な隠蔽や管理不備に対して十分な抑止力がない。
大会優先・名誉保持を重んじる風潮が、内部告発をためらわせ、事案の矮小化を招いている。結果として、「甲子園に行くために、問題を隠す」文化が温存されてきた。
■ いま必要なのは“外の目”と“透明化”
- 第三者の常駐・監視体制の導入
寮内には監督やOBではない“セーフガーディング担当者”を配置し、夜間含めた見守り体制を整える。 - 匿名通報ルートの整備
スマホやLINEで外部に通報できる仕組みを全国共通で導入する。報復を恐れず声を上げられる環境が不可欠だ。 - 処分・調査内容の公開
どのような暴力があり、どう再発防止を行ったのかを高野連・学校が公表する。曖昧な「対応中」では信頼は戻らない。
■ 学校部活モデルの限界と地域移行の必要性
監督や教員が、指導・生活・寮管理の全責任を背負う現行の構造では、ハラスメント防止まで手が回らない。地域クラブ型への移行を促進し、複数の大人が見守る体制を構築することが急務だ。
また、文科省や高野連が「運動部寮ガイドライン」を策定し、常駐職員・カメラ設置・定期点検・教育を義務化することも必要だ。
■ “甲子園ブランド”が抱える倫理的ジレンマ
甲子園は教育の場であると同時に、巨大な興行でもある。テレビ放映・スポンサー・学校宣伝といった利害が絡むため、スキャンダルを隠したい力が働く。
だが、その沈黙の代償はあまりにも大きい。名門の肩書きの裏で、若者の尊厳が奪われる事件が繰り返されている。
■ 結論:「勝利」よりも「人間」を守る改革を
寮という制度、指導者依存の文化、名誉優先の構造。この3つの闇を直視しなければ、第二、第三の“酒田南”“広陵”は防げない。
高校野球が再び「教育」と呼べる場になるには、暴力をなくすための徹底的な透明化と、外部の目の導入しかない。甲子園のきらびやかな舞台の裏で、いまこそ現実を直視する時だ。