クマ被害が過去最大級に拡大している現実
近年、国内のクマ出没・人的被害は統計上でも過去最多を更新し続けている。住宅街、学校、市街地にまで出没し、死亡事故や重傷事故も相次いでいる。特に里山と都市部の境界が曖昧になった自治体では「常態化した危険」と言えるレベルにまで達している。
しかし、この深刻な状況の最前線で対応するハンター(有害鳥獣駆除従事者)の日当は驚くほど安い。一般的には1〜2万円前後、多くの自治体では装備費や弾薬費も“自己負担”。
なぜここまで待遇が低いのか? そして、自治体が独自に“特別税”を導入して十分な予算を確保しないのはなぜなのか? 本記事では、構造的な理由を深掘りする。
ハンターの日当が安い3つの構造的理由
1. 駆除制度の前提が「ボランティア性」から脱却していない
日本の有害鳥獣対策は戦後から一貫して“地域の猟友会による奉仕的活動”に依存してきた。
制度設計が古く、「危険業務=公的専門職」ではなく「地域の有志」扱いのままになっている。
そのため予算確保の優先度が極めて低い。
2. 予算が“補助金依存”で自治体が主体的に動けない
多くの駆除費用は国の補助金で賄われている。
そのため自治体は「国の枠の範囲でやる」のが基本で、自治体独自の思い切った増額ができない構造になっている。
自治体が独自に高額日当を設定してしまうと、
- 住民監査請求のリスク
- 他自治体との均衡崩壊
- 「過度なハンター優遇」との批判 など、行政的にも政治的にも面倒が多い。
3. ハンターの高齢化+人材不足で“労働市場が成立していない”
若い人がほぼ入らず、平均年齢は60〜70代。
市場競争が成立しないため、待遇改善の圧力が働かない。
極端に言えば、「安い日当でも危険業務を引き受けてくれる層」がいままで存在したことで、構造改革が遅れてきた。
では、自治体が特別税を導入すれば解決なのか?
あなたが指摘する通り、実は“税金でしっかり予算確保”すれば解決する問題でもある。
しかし、それでも実行されない理由は複数ある。
1. 地方自治体の“独自課税”は法的ハードルが非常に高い
地方税法では、自治体が独自の新税を作る場合、
- 住民生活に明確な必要性
- 課税の公平性
- 法律上の根拠
- 総務省との協議 が必要で、簡単には通らない。
「クマ対策税」は目的税としては合理性があるものの、
地方税として前例がほぼないため、役所側が動きにくい。
2. 「少数の地域のみの問題」を理由にされる
たとえ山間部が被害甚大でも、市街地住民の多くは「自分事ではない」と認識しがち。
一部の自治体では、人口の8割以上が都市部のため、議会審議で“課税根拠の薄さ”を指摘されやすい。
実際には都市部にも出てきているのに、行政の意識はまだ追いついていない。
3. 役所は「新税導入=批判リスク」を極端に嫌う
政治的な理由が最大。
新税導入は、どんな名目であっても反対派が必ず現れ、議会も面倒になる。
しかし、クマ対策は「行政の怠慢」「ハンターの待遇問題」に直結するため、 責任論が浮上することを避けたい行政側が、制度改革を嫌がる側面が強い。
では実際、特別税を導入したらどうなる?
導入できればメリットが大きい。
● メリット
- ハンターの“危険業務職”として待遇改善
- 専門職採用(レンジャー・自治体ハンター)の拡大
- クマ対策の常態化・迅速化
- 電気柵や土地管理など予防策に回せる
なんなら、年間数百円レベルの住民税上乗せでも予算は十分確保できる。 反対する住民は実際ほとんどいないだろう。
● 住民が反対しにくい理由
- 生命に関わる安全保障の問題
- 子ども・高齢者の被害増加が社会ニュース化
- 「たった数百円なら払う」という心理的受容性が高い
他の税目的に比べても“最も合意形成しやすい部類”であることは間違いない。
「ハンター公務員化」という解決策が本来は最適
海外では、危険動物対策はプロのレンジャーや公務員職が担うのが普通。
日本のように高齢ボランティアに任せている国は珍しい。
ハンターを自治体雇用の“危険業務職”として採用すれば、
- 若者の新規参入
- 専門的訓練
- 24時間体制の即応性
- 装備の最新化 が可能になる。
これこそ本質的解決策だが、これも予算の壁があるため進んでいない。
まとめ:クマ被害急増こそ、制度改革のチャンス
クマ被害がここまで拡大したことで、
「ハンターは安すぎる日当で危険業務をしている」
という事実が社会的にようやく認知されつつある。
本来であれば、
- 特別税の導入
- 公務員ハンターの創設
- ハンター待遇の抜本改善
- クマ対策の恒常的予算化 など、いくらでも実行できる時期に入っている。
反対する住民は極めて少なく、むしろ積極的に支持される政策だと言える。
クマが市街地にまで出没する時代、
旧来の“ボランティア頼み”の制度を続ける方がリスクそのもの。
自治体が“動けば解決する”問題である以上、
今後は世論とメディアを通じて制度改革を進めることが極めて重要と言える。