2026年8月、れいわ新選組は党名を「いのちの党」に変更しました。
山本太郎氏の代表辞任と政界引退、共同代表だった大石あきこ氏の離党、代表選挙による山本ジョージ氏の選出を経て、党名まで変える大規模な再出発となりました。
そのため、いのちの党を「れいわ新選組の後継政党」と表現することもできます。ただし、別の新党が結成されて、れいわ新選組を引き継いだわけではありません。正確には、れいわ新選組という既存政党が、組織を維持したまま党名を変更したものです。
この記事では、いのちの党が誕生した経緯、新代表の山本ジョージ氏、新しい執行部、れいわ新選組との違い、今後の課題について整理します。
いのちの党とは
いのちの党は、2026年8月6日に「れいわ新選組」から党名を変更した国政政党です。略称は「いのち」です。
党は、所属構成員や職員、スタッフによる懇談会での協議を経て、臨時総会で綱領を改正し、臨時役員会で規約を改正したと発表しました。
これは政党の解散と新党結成ではなく、党名変更です。そのため、れいわ新選組が持っていた組織、所属議員、地方議員、支援者制度などは、原則としていのちの党へ引き継がれています。
公式サイトでも、従来のオーナーズ・フレンズ制度やボランティア組織、候補者公募などが継続されています。旧れいわ新選組のサイトや関連ページへのリンクが残っている部分もあり、実務面では移行の途中にあることが分かります。
したがって、いのちの党は「れいわ新選組の後継」というより、「れいわ新選組が名称と体制を刷新した政党」と表現する方が正確です。
れいわ新選組はどのような政党だったのか
れいわ新選組は、2019年4月に山本太郎氏が立ち上げた政党です。同年の参議院選挙で比例代表の得票率2%を超え、結党から約3か月で国政政党となりました。
消費税廃止、積極財政、最低賃金の引き上げ、奨学金返済の免除、障害者や生活困窮者への支援、原発廃止などを掲げ、既存政治に強い不満を持つ層から支持を集めました。
特に山本太郎氏の街頭演説や「おしゃべり会」は注目され、企業や労働組合、宗教団体などの大きな組織に頼らず、個人の寄付とボランティアに支えられる草の根政党を標榜しました。
一方で、党の知名度や集客力が山本太郎氏個人に大きく依存していることは、以前から指摘されていました。山本氏の発信力が党の最大の強みであると同時に、山本氏が活動できなくなった場合の弱点でもあったのです。
山本太郎の議員辞職と政界引退
大きな転機となったのが、2026年1月の山本太郎氏の参議院議員辞職です。
山本氏は健康上の理由として、自身が「多発性骨髄腫、血液のがんの一歩手前」にあると説明し、療養を優先するため国会議員を辞職しました。ただし、この時点では党代表にはとどまり、将来の復帰にも意欲を示していました。
その直後に行われた2026年2月の衆議院選挙では、れいわ新選組の当選者は比例南関東ブロックの山本ジョージ氏1人にとどまりました。山本太郎氏が前面に立てない選挙で、党の議席が大きく後退したことは、個人依存からの脱却という課題を改めて浮かび上がらせました。
さらに2026年7月、党は山本太郎氏が2025年10月に東九州自動車道で速度違反を起こし、罰金9万円と90日間の運転免許停止処分を受けたことを公表しました。法定速度80キロの区間を時速149キロで走行していたとされています。
山本氏は7月9日の記者会見で謝罪し、速度違反だけでなく、健康状態の数値が思わしくないことも理由に挙げ、代表辞任と政界引退を表明しました。
山本氏は、党務を減らしても精神的負担が大きく、復帰を約束し続けることも自身と支援者の双方にとって誠実ではないと説明しています。れいわ新選組は、創設者であり最大の象徴だった人物を失うことになりました。
大石あきこもれいわ新選組を離党
山本太郎氏の辞任会見では、共同代表だった大石あきこ氏も党を離れる意向を表明しました。
大石氏は、山本氏が表立った活動を休止した約半年間、党の顔として活動してきたものの、党をうまくまとめられなかったと説明しました。そして、山本太郎体制の終了とともに党を離れ、しばらく休みたいと述べています。
大石氏は国会で政府や与党を激しく追及する姿勢で知られ、山本氏に次ぐ党の顔の一人でした。そのため、山本氏の政界引退と大石氏の離党が重なったことは、れいわ新選組にとって単なる代表交代以上の大きな転換でした。
ただし、旧執行部の全員が離党したわけではありません。奥田ふみよ氏や天畠大輔氏、伊勢崎賢治氏、木村英子氏、大島九州男氏などの国会議員や、多数の自治体議員は新体制に残っています。
新代表の山本ジョージとは
山本太郎氏の辞任を受け、れいわ新選組は2026年7月に代表選挙を実施しました。
立候補したのは、衆議院議員の山本ジョージ氏、元衆議院議員のさかぐち直人氏、三鷹市議会議員の石井れいこ氏の3人です。7月31日の投開票で山本ジョージ氏が当選し、第2代代表に就任しました。
山本ジョージ氏の本名表記は山本譲司です。1989年に東京都議会議員に初当選し、その後、旧民主党の衆議院議員を務めました。
一方、2000年には政策秘書の給与をめぐる詐欺事件で逮捕され、議員辞職後に実刑判決を受けて服役しています。本人も事件を認め、服役中に高齢者や障害者が多い刑務所の現実を知ったことを契機として、出所後は障害者福祉や更生支援の活動に取り組みました。
2026年の衆議院選挙で、れいわ新選組から比例南関東ブロックに立候補し、約25年ぶりに国政へ復帰しました。
過去の事件は新代表を評価するうえで避けられない経歴です。その一方で、罪を認めて服役し、その後20年以上にわたって福祉や更生支援に携わってきたことも、山本氏の政治活動を特徴づけています。
いのちの党の新しい執行部
2026年8月5日に発表された新執行部では、山本ジョージ代表が選挙対策委員長を兼務し、参議院議員の天畠大輔氏が共同代表に就任しました。
副代表には伊勢崎賢治氏、奥田ふみよ氏、やはた愛氏が就任しています。伊勢崎氏は政策審議会長、国会対策委員長、参議院国会対策委員長も兼務します。
幹事長は高井たかし氏、幹事長代理はつじ恵氏です。
国会議員は、衆議院では山本ジョージ氏、参議院では伊勢崎賢治氏、大島九州男氏、奥田ふみよ氏、木村英子氏、天畠大輔氏が所属しています。
山本ジョージ氏は代表選挙で、山本太郎氏の代わりになることはできないと認めたうえで、これまでの党は山本氏のカリスマ性に頼りすぎていたと指摘しました。そして、地域組織や所属議員、ボランティアの意見を反映する「ボトムアップの政党」への転換を掲げています。
つまり、新体制の最大のテーマは、新しいカリスマを探すことではなく、一人の代表が不在でも動く組織をつくれるかどうかです。
なぜ「いのちの党」に改名したのか
党の公式発表では、党名決定までの手続きは説明されていますが、「いのち」という名称を選んだ詳しい理由は明示されていません。
ただし、れいわ新選組は以前から「生きているだけで価値がある社会」や「日本を守るとは、あなたを守ることから始まる」と訴えてきました。障害者、生活困窮者、非正規労働者、病気を抱える人など、社会的に弱い立場に置かれた人の生存と尊厳を守ることは、結党以来の中心的な理念です。
その意味で「いのちの党」という名称は、れいわ新選組の理念を短い言葉で表したものと考えられます。
同時に、「れいわ新選組」という名称は山本太郎氏と強く結び付いていました。創設者の政界引退後も同じ名称を使い続けるより、党名を変えて新体制を印象付ける狙いがあるとみるのが自然でしょう。
ただし、これは公式発表された命名理由ではなく、これまでの理念と党を取り巻く状況からの評価です。
政策はれいわ新選組から変わるのか
山本ジョージ代表は、れいわ新選組が掲げてきた政策を引き継ぐ考えを示しています。
そのため、消費税廃止、積極財政、社会保障の拡充、最低賃金引き上げ、奨学金問題への対応、反原発、平和外交などの基本路線が、直ちに大きく変わるとは考えにくいでしょう。
2026年8月下旬時点で、いのちの党の公式サイトにある基本政策ページは「準備中」とされています。党名変更に合わせた新しい政策体系や表現は、今後改めて公表される可能性があります。
したがって現段階では、政策そのものの大転換よりも、組織運営と発信方法の転換が先行しているとみられます。
秘書給与をめぐる疑惑も課題
新体制には、旧れいわ新選組時代に報じられた公設秘書給与をめぐる疑惑への対応も求められています。
元所属議員は、党職員を公設秘書として登録し、その枠を党に提供した議員へ金銭を配る仕組みがあったと主張しています。これに対して山本太郎氏や山本ジョージ代表は、公設秘書が秘書業務として党務に携わることはあり、適法性を確認してきたという立場を示しています。
現時点で疑惑が違法行為として確定したわけではありません。しかし、党名を変更しても、旧組織の運営をめぐる説明責任まで消えるわけではありません。新体制が客観的な資料を示し、支援者や有権者の疑問に答えられるかは、信頼回復の重要な論点となります。
いのちの党の今後の課題
いのちの党の最大の課題は、山本太郎氏がいない状態で政党としての存在感を維持できるかどうかです。
れいわ新選組は、山本氏の演説力、知名度、発信力によって支持を広げてきました。党名を変更しても、その支持者が自動的に新体制へ移るとは限りません。
また、2026年衆議院選挙では衆議院の議席が1議席にまで後退しました。大石あきこ氏も離党しており、国会で注目を集めてきた発信者が減っています。
一方で、参議院議員や自治体議員、全国のボランティア組織は残っています。山本太郎氏個人への依存を減らし、地域から候補者と支持者を育てることができれば、党名変更が組織再建の契機となる可能性もあります。
いのちの党がれいわ新選組の政策と支持基盤を受け継ぐだけの政党になるのか、それとも新しい運営体制と支持層を築くのかは、今後の選挙と党活動によって判断されることになります。
まとめ
いのちの党は、れいわ新選組とは別に結成された新党ではなく、2026年8月6日にれいわ新選組が党名を変更した国政政党です。
山本太郎氏の健康問題、速度違反、代表辞任と政界引退、大石あきこ氏の離党を経て、山本ジョージ氏が新代表に就任しました。共同代表は天畠大輔氏、幹事長は高井たかし氏です。
基本政策はれいわ新選組から引き継ぐ方針ですが、党運営では山本太郎氏のカリスマ性に依存した体制を見直し、ボトムアップ型の組織を目指しています。
「れいわ新選組の後継政党」という表現は大きく間違ってはいませんが、正確には同じ政党の改称と再編です。いのちの党の成否は、名称の刷新ではなく、創設者がいなくても活動できる組織を築き、政策と説明責任の両面で信頼を得られるかにかかっています。