2026年8月29日未明、東京都議会議員のさとうさおり氏が、任期途中での議員辞職を表明しました。
辞職動画で「命を優先」「命は一つ」と語ったことから、SNSでは「殺害予告を受けたのではないか」「警察にも相談できないほど強大な相手に狙われたのではないか」といった説が広がっています。
特に注目されているのが、さとう氏が過去に語った「公安にも影響力を持つ民間人」に関する話です。
この発言から、警察や公安がその人物に支配されている、警察へ相談しても握り潰される、だから議員を辞めるしかなかったという物語がつくられています。
しかし、2026年8月31日時点で、さとう氏本人が「警察にも相談できない」と発言した事実は確認できません。
「警察に相談できない」という話は、本人の直接発言ではなく、過去の発言と今回の辞職を結びつけた第三者の推測である可能性が高い状態です。
今回は、さとう氏が実際に語ったこと、「公安」という言葉の意味、警察へ相談した事実があるのかを分けて検証します。
結論:「警察にも相談できない」は本人の直接発言ではない
まず結論から整理すると、さとう氏の辞職動画には、警察へ相談した、警察に相談できない、警察が対応してくれなかったという説明はありません。
過去の動画についても、確認できる範囲では、さとう氏が「警察に相談できない」と明言した場面は見つかっていません。
ネット上で広がっている「警察にも相談できない」という表現は、辞職動画を見た視聴者が投稿した疑問や、第三者が制作した解説動画の推測として使われています。
つまり、次のような変換が行われています。
本人の発言
「影響力を持つ民間人について聞かされた」
第三者による解釈
「その人物は公安を動かせる」
さらに拡大した推測
「警察も逆らえないため相談できない」
辞職理由への接続
「警察にも相談できず、命を守るため辞職した」
最初の本人談と、最後の結論との間には、複数の推測が挟まっています。
辞職動画で警察について何を語ったのか
さとう氏は辞職動画で、「今後の人生に大きくかかわる事情」が重なり、これまでと同じように議員生活を続けることが困難になったと説明しました。
そのうえで、「今まで以上に命を優先」し、「今を生きる活動」に入ると述べています。
事情については、自分だけに関係する問題ではない部分もあるため、詳細を公表しないとしました。
しかし、辞職動画では次の点に触れていません。
・脅迫を受けたのか
・殺害予告があったのか
・家族へ危害を加えるといわれたのか
・警察へ相談したのか
・警察が対応しなかったのか
・警察に相談できない相手なのか
・公安が関係しているのか
・特定の人物や組織に命を狙われたのか
「命を優先」という言葉は重大ですが、それだけで犯罪被害や警察の不作為まで確認されたことにはなりません。
過去の「金と暴力と圧力」発言とは
今回の「警察にも相談できない」説の主な材料になっているのが、さとう氏が2024年9月22日に公開した「金と暴力と圧力の支配下にいます」と題する動画です。
この動画で、さとう氏は、政治活動を始めた時期に初対面の議員から、ある民間人に話を通したのかと確認されたという趣旨の話をしています。
その民間人については、議員よりも強い影響力を持ち、公安にも影響を及ぼせる人物であると説明された、という趣旨の発言が紹介されています。
また、政治関係者や団体への寄付を断ったことに関連して、家族を潰すと受け取れる発言をされたという本人談も、辞職後に拡散した編集動画で取り上げられています。
これらが事実であれば、軽視できない内容です。
ただし、この話は基本的にさとう氏自身の証言であり、相手の氏名や所属、正確な発言内容は公表されていません。
録音、メール、文書、警察への相談記録、関係者の証言など、第三者が内容を検証できる資料も確認できません。
本人の直接体験と伝聞が混在している
この話を理解するうえで重要なのは、本人が直接確認したことと、他人から聞いたことを分けることです。
さとう氏がある議員と会話したことは、本人の直接体験として語られています。
一方、話に登場する民間人が、本当に警察や公安へ影響力を持っているのかは、その議員から聞かされた情報です。
つまり、少なくとも一段階の伝聞が含まれています。
議員がその人物の影響力を誇張した可能性もあれば、さとう氏を萎縮させるために大げさな説明をした可能性もあります。
反対に、本当に強い政治的人脈を持つ人物だった可能性も否定できません。
しかし、人物が特定されず、裏付け資料も公表されていない以上、外部から真偽を判断することはできません。
「公安を動かせる」とは何を意味するのか
ネット上では「公安を動かせる人物」という表現が、国家権力や警察組織全体を自由に操れる人物という意味で受け取られています。
しかし、「公安」は一つの組織を指す言葉ではありません。
日本には、公安警察、公安調査庁、国家公安委員会、都道府県公安委員会など、名称に公安が入る別々の組織や機関があります。
公安警察は、警視庁や各道府県警察に置かれ、テロ、過激派、外国勢力などに関する捜査や情報収集を行う警察部門です。
公安調査庁は法務省の外局で、破壊活動防止法や団体規制法などに基づいて情報収集や分析を行う機関です。警察組織ではありません。
国家公安委員会と都道府県公安委員会は、警察行政の政治的中立性を確保するため、警察庁や都道府県警察を管理する機関です。
さとう氏の話に登場する「公安」が、どの組織を指すのかは明確ではありません。
そのため、「公安に影響力がある」という曖昧な話から、「警察組織全体を支配している」と結論づけることはできません。
「公安も逆らえない」なら警察への相談は無意味なのか
仮に、ある人物が政治家や一部の警察関係者と強い人脈を持っていたとしても、それだけで警察へ相談できないことにはなりません。
警察は、一人の警察官や一つの部署だけで構成されているわけではありません。
東京都であれば、最寄りの警察署、警視庁総合相談センター、警視庁本部など複数の相談先があります。
緊急の事件や生命への危険であれば110番、緊急ではない相談であれば警察相談専用電話「#9110」が案内されています。
インターネット上で殺害予告や脅迫を受けた場合も、警察庁は最寄りの警察署へ通報し、緊急を要する場合は110番を利用するよう案内しています。
また、警察職員の対応に問題がある場合は、警察本部へ苦情を申し出るほか、警察法第79条に基づき、都道府県公安委員会へ文書で苦情を申し出る制度もあります。
制度上、特定の人物が影響力を持っているという理由だけで、すべての警察相談窓口が利用できなくなるわけではありません。
相談窓口があることと安全が保証されることは別
ただし、警察へ相談できる制度があるからといって、相談すれば必ず捜査や身辺警護が始まるわけではありません。
警察が事件として動くには、具体的な脅迫内容、相手、日時、証拠、危険の切迫性などが重要になります。
「誰かから監視されている気がする」「影響力のある人物に狙われているかもしれない」という段階では、警察が直ちに刑事事件として扱えない場合もあります。
また、相談者が警察内部にも情報が漏れるのではないかと恐れていれば、心理的に相談しにくくなることも考えられます。
したがって、「制度上は相談できる」と「本人が安心して相談できる」は別の問題です。
それでも、さとう氏が警察内部への不信を理由に相談を断念したとする本人発言は、現時点では確認されていません。
さとう氏は実際に警察へ相談したのか
2026年8月31日時点で、さとう氏が今回の辞職に関係する問題を警察へ相談したという公表情報は確認できません。
相談していないのか、相談したが非公表なのかも分かりません。
また、次のような情報も公表されていません。
・相談した警察署や部署
・相談した日時
・相談内容
・受理番号や相談記録
・被害届や告訴状の提出
・警察から受けた説明
・身辺警護や安全対策の有無
・警察が対応を拒否した事実
・弁護士を通じた相談の有無
安全上の理由から、これらを公表していない可能性はあります。
しかし、情報が公表されていないことを理由に、「警察へ相談したが握り潰された」と断定することもできません。
「警察にも相談できない」という言葉は誰が発したのか
検索で確認できる範囲では、「警察に相談できないのか」という表現は、辞職動画を見た第三者のSNS投稿に登場しています。
投稿者が「本当に命を狙われているのであれば、なぜ警察に相談しないのか」と疑問を示し、それに対して別の投稿者が「警察も政治家の側だから相談できないのだろう」と推測しています。
このやり取りが繰り返されるうちに、「警察にも相談できない」が、あたかもさとう氏本人の説明であるかのように扱われ始めています。
しかし、本人の発言と、支持者や動画制作者の解釈は分ける必要があります。
本人が言っていない言葉をかぎ括弧に入れて拡散すると、実際の発言として定着してしまう可能性があります。
辞職と過去の公安発言はつながっているのか
さとう氏の過去発言が事実だったとしても、その出来事と2026年8月の辞職が直接つながっているかは分かりません。
過去動画は2024年9月に公開されました。
その後、さとう氏は千代田区長選挙へ立候補し、2025年6月の東京都議会議員選挙で当選しています。
つまり、影響力を持つ民間人や政治的な圧力について語った後も、約2年間にわたって政治活動を継続しています。
今回の辞職理由が同じ人物や団体に関係しているのであれば、本人による追加説明が必要です。
過去動画と辞職動画を続けて編集するだけでは、両者の因果関係は証明できません。
確認できる事実と推測
現時点で確認できるのは、次の点です。
・さとう氏は辞職に際して「命を優先」と語った
・詳細は本人以外にも関係するため公表しないと説明した
・2024年に「金と暴力と圧力」に関する動画を公開した
・過去動画では、影響力を持つ民間人について議員から聞かされたと語った
・本人は相手の氏名や所属を明らかにしていない
・今回の辞職動画では警察や公安に言及していない
・警察への相談記録は公表されていない
・「警察にも相談できない」という本人発言は確認できない
一方、次の内容は推測です。
・その民間人が実際に公安を動かせる
・警察組織がその人物に支配されている
・警察へ相談すると情報が相手に漏れる
・警察が相談を拒否した
・過去に登場した人物が今回の辞職に関与した
・警察へ相談できないため議員を辞職した
まとめ
「警察にも相談できない」という話は、2026年8月31日時点で、さとうさおり氏本人の直接発言として確認できません。
さとう氏が過去に語ったのは、政治家よりも強い影響力を持ち、公安にも影響を及ぼせるとされる民間人について、ある議員から聞かされたという話です。
これは本人が語った体験ではありますが、民間人の影響力に関する部分は伝聞です。
そこから「公安も逆らえない」「警察組織全体が支配されている」「警察へ相談しても無駄」「だから辞職した」と結論づけるには、情報が足りません。
さとう氏が実際に警察へ相談したのか、相談を断念したのか、警察から対応を拒否されたのかも分かっていません。
警察には110番、#9110、警察署、警察本部、公安委員会への苦情申出など複数の窓口があります。
もちろん、窓口が存在することと、安全や捜査が必ず保証されることは同じではありません。
それでも、「警察にも相談できないほどの人物に狙われた」という説明は、現段階では本人発言ではなく、複数の推測をつないだ説として扱う必要があります。