テレビ東京の動画配信サービス「テレ東BIZ」が、元日本赤軍最高幹部・重信房子氏と池上彰氏の対談企画を公開し、SNSで強い批判を集めています。
テレ東BIZは公式Xで、「池上彰がいま話を聞きたい30人」の一人として重信氏を紹介しました。
告知文では、革命を掲げて闘争した当時、獄中生活、現在の暮らしを聞いたと説明。「革命とは何だったのか」「なぜ日本ではなく海外で闘ったのか」「パレスチナを選んだワケとは」といったテーマが並んでいます。
これに対し、SNSでは「何を考えているのか」「テロリストに宣伝の場を与えるな」「被害者ではなく加害組織の最高幹部を主役にしている」「革命家の人生物語のように扱っている」などの批判が続出しました。
重信氏は、単に過激な政治思想を唱えていた元活動家ではありません。
一般旅行者を巻き込んだテルアビブ・ロッド空港乱射事件、在外公館占拠、ハイジャックなどを起こした国際テロ組織・日本赤軍の最高幹部です。重信氏自身も、ハーグ事件への関与による殺人未遂などの罪で懲役20年が確定し、服役しています。
その人物を「池上彰がいま話を聞きたい30人」に選び、人生や現在の暮らしまでじっくり聞く企画を作ることは、報道として許されるのでしょうか。
一方で、重大事件の当事者から直接証言を得ることまで否定すれば、歴史検証やテロが生まれた過程の解明も困難になります。
問題は、重信氏へ取材したこと自体なのでしょうか。それとも、犯罪と被害者よりも「革命」「闘争」「獄中生活」を前面に出した番組の見せ方なのでしょうか。
この記事では、テレ東BIZの企画内容、日本赤軍と重信房子氏の経歴、SNSで炎上した批判、取材を擁護する意見を整理します。そのうえで、テレ東は本当にテロリストを美化したのか、報道番組に求められる条件を検証します。
テレ東BIZが重信房子と池上彰の対談を公開
問題となったのは、テレ東BIZの企画「池上彰がいま話を聞きたい30人」です。
テレ東BIZは2026年9月1日、公式Xで次のように告知しました。
池上彰がいま話を聞きたい30人。今回は元日本赤軍の最高幹部・重信房子さん。革命を掲げ闘争した当時と獄中生活、現在の話をじっくり聞いた。
さらに、「革命」とは何だったのか、なぜ日本ではなく海外で闘ったのか、なぜパレスチナを選んだのか、21年の獄中生活を終えた現在はどのように暮らしているのか、と紹介しています。
フルバージョンはテレ東BIZで配信され、YouTubeにはダイジェスト版が公開されました。
そのため、一般的な地上波のゴールデンタイムに放送された大型特番というより、テレ東BIZの配信対談企画と表現する方が正確です。
しかし、テレビ東京の報道ブランドと池上彰氏の名前を使い、公式YouTubeやXでも広く宣伝している以上、公共性のある報道コンテンツとして批判や検証の対象になることは当然でしょう。
なぜ告知直後から炎上したのか
炎上の大きな原因は、重信氏を登場させたことだけではありません。
公式告知から、日本赤軍が引き起こした大量殺傷事件や被害者の存在がほとんど見えず、「革命を掲げ闘争した人物の人生をじっくり聞く」という柔らかな人物紹介に見えたことです。
告知には「元日本赤軍の最高幹部」とありますが、日本赤軍がどのような組織だったのか、何人もの民間人が犠牲になったこと、重信氏が殺人未遂などで有罪になったことは記されていません。
代わりに強調されたのは、革命、海外闘争、パレスチナ、獄中生活、現在の暮らしです。
これでは、国際テロ組織の最高幹部を検証する番組というより、信念を貫いて投獄された革命家の回顧録のように受け取られる可能性があります。
テレビ東京がその意図を持っていたとまでは断定できません。しかし、告知文がそのような印象を生んだことは否定できません。
重信房子とは何者なのか
重信房子氏は、共産主義者同盟赤軍派の活動家として学生運動に参加し、1971年にレバノンへ渡りました。
現地でパレスチナ解放人民戦線、PFLPと接触し、赤軍派アラブ支部を設立。その組織は後に日本赤軍と呼ばれる国際テロ組織へ発展しました。
警察庁は、日本赤軍について、世界各地で在外公館占拠、ハイジャック、空港襲撃などのテロ事件を起こした組織と位置付けています。
日本赤軍は2001年に解散を表明しました。しかし警察庁は、過去のテロ事件を称賛する姿勢や逃亡中の構成員がいることなどから、解散は組織の本質を隠す形式的なものにすぎないとの見方を示してきました。
重信氏は日本赤軍の創設者であり、長期間にわたって最高幹部を務めた人物です。
単に「昔、学生運動をしていた人」でも、「パレスチナ問題を訴えた思想家」でもありません。
武装闘争を方針とし、民間人を含む多数の死傷者を出した組織の指導的立場にあった人物です。
テルアビブ・ロッド空港乱射事件とは
日本赤軍を世界的に知らしめたのが、1972年5月30日にイスラエルのロッド国際空港、現在のベン・グリオン国際空港で起きた乱射事件です。
日本人実行犯3人は、空港ターミナル内で自動小銃を乱射し、手榴弾を使用しました。
警察庁の資料では、一般旅行者ら約100人が殺傷され、24人が死亡、76人が重軽傷を負ったとされています。海外資料などでは死者26人とする記録もあります。
犠牲者にはイスラエル人だけでなく、巡礼旅行中だったプエルトリコの人々など、多数の外国人旅行者が含まれていました。
これは戦闘員同士の衝突ではありません。空港にいた一般旅行者を巻き込んだ無差別殺傷テロです。
ただし、ここでは事実関係を正確に分ける必要があります。
重信氏自身は、この空港で銃を撃った実行犯ではなく、この事件について有罪判決を受けたわけでもありません。事件はPFLP側が中心となって計画し、日本人3人が実行したとされ、重信氏本人は直接関与を否定しています。
一方で、事件を起こした組織の形成と拡大に関わり、その後も最高幹部として日本赤軍を率いた政治的・組織的責任まで消えるわけではありません。
「重信房子本人が空港で26人を殺した」と表現するのは不正確ですが、「大量無差別テロを起こした組織の最高幹部だった」という批判は事実に基づいています。
重信房子が有罪になったハーグ事件
重信氏自身が有罪判決を受けたのは、1974年にオランダで起きたハーグ事件です。
日本赤軍のメンバー3人が、ハーグにあるフランス大使館へ拳銃を乱射しながら侵入し、大使ら11人を人質に取りました。
犯行グループは、フランスで拘束されていた仲間の釈放などを要求。事件では警察官らが銃撃によって負傷しています。
重信氏は実行現場にはいませんでしたが、事件の共謀共同正犯として、殺人未遂、逮捕監禁などの罪に問われました。
本人は事前共謀への関与を否定し続けましたが、一審、二審で懲役20年となり、2010年に最高裁で刑が確定しました。
2022年5月、刑期を満了して出所しています。
したがって、重信氏は「何も実行していないのに思想だけで投獄された人物」ではありません。日本の裁判で、武装大使館占拠事件への関与が認定された受刑者です。
SNSでは「テロリストを美化するな」と批判
テレ東BIZの告知に対し、Xでは批判的な反応が相次ぎました。
代表的な意見は、次のように整理できます。
- 大量殺傷テロを起こした組織の最高幹部へ、好意的な発言の場を与えている
- 犠牲者や遺族より、加害組織の幹部の人生や獄中生活を中心に扱っている
- 「闘争」「革命」という言葉で、テロを政治運動としてロマン化している
- 暴力団最高幹部なら同じような人物対談を組むのか
- 若い視聴者が事件を知らないまま見れば、格好のよい反体制活動として受け取る危険がある
- 重信氏を「さん」付けし、「話を聞きたい30人」に選ぶこと自体が不適切である
- 比較的まともだと思っていたテレビ東京まで、テロリストを持ち上げるのか
実際の投稿では、「テロリストに名前や宣伝の場を与えるべきではない」「獄中生活より被害者を取り上げるべきだ」「革命家ではなく犯罪組織の指導者として扱うべきだ」といった趣旨の声が見られました。
なかでも、「テレ東も終わった」「池上彰は何を考えているのか」という反応が目立ちました。
これはテレビ東京に対し、他局よりも比較的中立で堅実な報道をするというイメージを持っていた視聴者ほど、強く失望したためと考えられます。
「さん」付けが問題なのか
批判のなかには、テレ東BIZが「重信房子さん」と表記したことへの反発もあります。
確かに、国際テロ組織の元最高幹部を著名文化人などと同じ調子で紹介すれば、敬意を払っているように感じる人はいるでしょう。
一方、日本の報道機関では、刑期を終えた人物や有罪が確定した人物にも、現在の立場に応じて「氏」「さん」を使うことがあります。
敬称を付けたことだけで、テレビ東京が日本赤軍を支持しているとはいえません。
本質的な問題は敬称ではなく、何を肩書として示し、何を質問し、犯罪と被害者をどれだけ明確に伝えたかです。
「さん」を外して呼び捨てにしても、内容が英雄物語なら美化になります。逆に敬称を付けていても、犯罪事実と責任を厳しく追及していれば、検証報道として成立します。
テロリストに取材すること自体が間違いなのか
重信氏を出演させたことに対し、「テロリストには一切話をさせるべきではない」という意見もあります。
被害者や遺族の感情、模倣や英雄化の危険を考えれば、理解できる反応です。
しかし、報道機関が重大犯罪やテロ組織の当事者へ取材すること自体を禁止すべきだとはいえません。
なぜ若者が過激思想へ傾いたのか、組織内でどのような意思決定が行われたのか、テロを本人たちはどう正当化したのか、現在もその思想を維持しているのかを記録することには、歴史的・社会的な意味があります。
国家指導者、戦争犯罪の関係者、反社会的勢力、カルト教団の元幹部なども、取材対象になり得ます。
取材することと、相手の主張を肯定することは同じではありません。
むしろ、当事者の言葉を記録し、矛盾や責任逃れを検証することは、ジャーナリズムの仕事の一つです。
擁護側からは「本人の証言は貴重」との声
実際、SNSには批判だけでなく、「新左翼の国際テロ組織を率いた本人から直接話を聞けるのは貴重だ」「敵を知り、歴史を記録する意味がある」と評価する投稿も見られました。
刑期を満了した以上、重信氏には一般市民として発言する権利があり、メディアが取材することも法的に禁じられていません。
また、重信氏がどのような論理で武装闘争を正当化し、現在どう振り返っているかを確認することは、過激化の防止を考える材料にもなります。
テロを批判するためにも、テロ組織側が自らをどのように語るのかを知る必要があるという考えです。
この擁護論には一定の合理性があります。
しかし、本人の証言が貴重であることと、その証言をほぼ無批判に流してよいことは別問題です。
問われるのは取材の有無ではなく番組の構成
重信氏へのインタビューを報道として成立させるには、少なくとも次のような要素が必要です。
- 日本赤軍が起こした事件と犠牲者数を具体的に示す
- 重信氏本人が有罪になったハーグ事件を詳しく説明する
- 本人の主張と裁判所が認定した事実を分ける
- 被害者や遺族、捜査関係者、研究者など別の立場も提示する
- 民間人への暴力を革命や解放運動として正当化できるのか問いただす
- 現在も過去の事件を肯定しているのか、反省と謝罪の内容を確認する
- パレスチナ問題への支持と、民間人を標的にするテロを区別する
2025年にNHKが日本赤軍を扱った番組では、重信氏だけでなく、警察の元幹部、日本赤軍関係者など100人以上を取材したと告知していました。
テロ組織側の証言を含めながら、捜査側や複数の当事者を並べ、事件全体を検証する構成です。
一方、今回のテレ東BIZの告知は、池上氏と重信氏が学生運動や革命について語り合い、現在の暮らしまで聞くという人物対談を前面に出しています。
フル番組の一部だけを見て「完全な礼賛番組」と断定することには慎重であるべきです。しかし、少なくとも宣伝の段階で被害者と犯罪史が後景に退き、重信氏の人生と思想が主役になっていることは、批判されても仕方がありません。
池上彰は日本赤軍を肯定しているのか
今回の対談を理由に、「池上彰氏は日本赤軍の支持者だ」と断定する投稿も見られます。
しかし、これも確認できる発言とは一致しません。
池上氏は2022年の佐藤優氏との対談で、日本赤軍がテルアビブ空港乱射事件やハイジャック、誘拐事件に関与し、多くの命を奪ったことを「許しがたい犯罪」と明言しています。
また、当時の若者が重信氏に抱いた「革命ロマン主義」を、一種の倒錯として批判しています。
したがって、池上氏が日本赤軍のテロを全面的に肯定していると決め付ける根拠はありません。
一方で、過去に厳しい認識を示していたからこそ、今回の対談でその犯罪性をどこまで突き付けたのかが問われます。
重信氏の説明を聞くだけでなく、過去の本人の発言や裁判認定との矛盾を検証したのか。犠牲者の視点を示したのか。そこが番組を評価する基準になります。
刑期を終えたことは事件の清算を意味するのか
重信氏は懲役20年の刑期を満了しています。
刑期を終えた人物を社会から永久に排除すべきではないという考えは、法治国家として重要です。服役を終えたことを理由に、取材や発言の機会をすべて奪うべきではありません。
しかし、刑事罰を終えたことと、歴史的・道義的責任が消滅することは同じではありません。
日本赤軍の一連の事件には、死亡した被害者、負傷した被害者、長時間人質にされた人々、家族を奪われた遺族がいます。
本人の獄中生活や病気、現在の暮らしを語るのであれば、それと同じか、それ以上の重さで被害者の人生も扱う必要があります。
加害者の人間性を描くこと自体は間違いではありません。しかし、加害者だけが顔と声を持ち、被害者が数字にさえならない構成であれば、結果として加害者中心の物語になります。
パレスチナ問題を語ればテロは正当化されるのか
番組では、重信氏がなぜパレスチナを選んだのかがテーマにされています。
パレスチナの人々が置かれてきた状況や、イスラエル政府の政策を批判的に検証することは必要です。
しかし、パレスチナへの連帯と、空港にいた一般旅行者を無差別に殺傷することは別問題です。
どれほど正当な政治的要求を掲げても、民間人を意図的に巻き込む暴力が自動的に正当化されるわけではありません。
むしろ報道機関には、「大義」がテロの免罪符として使われる構造を検証する役割があります。
「革命」「解放」「抵抗」という言葉だけを強調し、その手段によって奪われた命を薄く扱えば、政治的背景の解説ではなく、テロ側の自己正当化に加担する危険があります。
テレ東は頭が狂ってしまったのか
結論からいえば、重信氏へ取材したという一点だけで、テレビ東京が「頭がおかしくなった」「テロ支援局になった」と断定するのは行き過ぎです。
重大事件の当事者に話を聞くことは、報道の役割に含まれます。池上氏も過去には、日本赤軍の行為を許しがたい犯罪と明確に批判しています。
しかし、今回の告知と企画の見せ方に重大な問題があるという批判は妥当です。
大量無差別テロを起こした組織の最高幹部を「いま話を聞きたい30人」に選び、革命、闘争、海外で活動した理由、21年間の獄中生活、現在の暮らしを前面に出す。
その一方で、組織が奪った命、重信氏の有罪判決、被害者や遺族の存在が告知からほとんど見えません。
これでは「テロを検証する番組」ではなく、「数奇な人生を歩んだ元革命家の人物ドキュメント」と受け取られても不思議ではありません。
意図的なテロ礼賛だったと断定できなくても、テロリストをロマン化してきた過去のメディア表現に対する感覚が鈍かったとはいえるでしょう。
今回の炎上から報道機関が学ぶべきこと
今回の炎上は、「犯罪者をテレビに出すな」という単純な出演禁止論だけで終わらせるべきではありません。
重要なのは、重大犯罪の加害側を取材するとき、誰の視点を中心に据えるのかという問題です。
重信氏の証言を記録する価値はあります。しかし、その価値を成立させるのは、厳しい質問、事件の具体的説明、裁判で認定された事実、被害者側の視点です。
それらが不足したまま、過激な人生、革命への理想、獄中での苦労だけを魅力的に切り取れば、番組制作者に美化の意図がなくても、結果としてプロパガンダの場を提供することになります。
また、炎上を受けたテレビ東京には、番組内で日本赤軍の事件と被害者をどう扱ったのか、重信氏へどのような質問をしたのか、企画の目的は何だったのかを説明する余地があります。
「話を聞くことに意味がある」で終わらせず、なぜその見せ方を選んだのかまで明らかにすることが、報道機関としての説明責任でしょう。
まとめ
テレ東BIZは、池上彰氏が重信房子氏へ話を聞く対談企画を公開しました。
公式告知では、革命とは何だったのか、なぜ海外やパレスチナで闘ったのか、21年の獄中生活を終えた現在の暮らしなどが紹介されています。
これに対しSNSでは、「テロリストを美化している」「被害者ではなく加害組織の最高幹部へ宣伝の場を与えている」「革命家のようにロマン化している」といった批判が相次ぎました。
重信氏は、日本赤軍の創設者・最高幹部です。日本赤軍は、テルアビブ・ロッド空港乱射事件をはじめ、在外公館占拠やハイジャックなどを繰り返しました。
重信氏自身もハーグ事件への関与による殺人未遂、逮捕監禁などで懲役20年が確定し、服役しています。
ただし、重信氏はロッド空港事件の実行犯ではなく、この事件で有罪になったわけではありません。「重信氏本人が空港で26人を殺害した」とする説明は不正確です。
一方、一般旅行者を大量に殺傷した組織の最高幹部としての政治的・組織的責任は残ります。
報道機関がテロ組織の当事者へ取材すること自体には、歴史的な意味があります。本人の証言から、過激思想やテロの正当化の構造を検証することもできます。
しかし、それを報道として成立させるには、犯罪事実、被害者、裁判所の認定、別の立場からの反証を、本人の人生談以上に重く扱う必要があります。
今回のテレ東BIZは、少なくとも告知の段階でそのバランスを大きく欠きました。
重信氏を取材したから炎上したのではありません。
大量無差別テロを起こした組織の最高幹部を、「革命を掲げて海外で闘い、長い獄中生活を送った人物」として売り出し、被害者の存在をほとんど見せなかったために炎上したのです。
テレビ東京が本当に示すべきなのは、元テロ組織幹部の数奇な人生ではありません。
革命という大義が、なぜ無関係な市民を殺傷する暴力へ転化したのか。そして重信氏が、その結果に対して今どこまで責任を認めているのかです。
そこを厳しく問いたださないのであれば、「テロリスト美化」との批判は避けられないでしょう。