東京都は、一般会計だけでも年間9兆円を超える巨大な予算を動かす自治体です。
その財政規模は、海外の一部の国にも匹敵します。
福祉、教育、防災、道路、上下水道、住宅、警察、消防など、都民の生活を支えるために大きな予算が必要なのは当然です。
一方で、都庁のプロジェクションマッピング、お台場の巨大噴水、東京都公式アプリのポイント配布など、「本当に優先すべき事業なのか」と疑問を持たれている施策もあります。
ただし、批判されている事業の予算が、すべて無意味に消えたとは限りません。
観光客を集めている事業、都民へ直接還元される事業、一定の利用実績が出ている事業もあります。
今回は、東京都の事業の中から「無駄遣いではないか」と特に批判された5件を取り上げ、予算額、目的、東京都側の説明、問題点、確認できる成果を整理します。
なお、ここでいう「無駄遣い」は、監査によって違法支出や不正支出と認定されたという意味ではありません。
費用対効果、優先順位、政策決定の透明性などをめぐり、都議会や都民から強い疑問が出た事業という意味です。
東京都の“無駄遣い”5選
| 事業 | 主な金額 | 批判されたポイント |
|---|---|---|
| プロジェクションマッピング | 関連事業は2023・2024年度で約48.5億円 | 観光効果の検証が難しく、生活支援より優先すべきか |
| お台場の巨大噴水 | 整備費約26.4億円、運営費年約2億円 | 年間3000万人という観覧推計の妥当性 |
| 東京アプリのポイント事業 | 追加補正450億円、当初分を含め1000億円超の規模 | 公費によるアプリ普及とデジタル弱者の排除 |
| AI婚活「TOKYO縁結び」 | マッチング事業は3年間で約3.6億円 | 行政が民間アプリと同じ事業を行う必要性 |
| 旧こどもの城「都民の城」計画 | 取得費525億円、改修計画136億円 | 取得後に活用計画を変更し、当初計画を見送り |
1.都庁プロジェクションマッピング
東京都は2024年2月から、都庁第一本庁舎の壁面を使ったプロジェクションマッピング「TOKYO Night & Light」を実施しています。
夜間観光を活性化し、都庁を東京の新しい観光名所にすることが目的です。
都議会で東京都側が説明したプロジェクションマッピング関連事業の予算は、2023年度が22億9000万円、2024年度が約25億6000万円でした。
合計すると、2年間で約48億5000万円です。
ただし、この金額には都庁舎で毎晩上映する事業だけでなく、都内各地で行うプロジェクションマッピングへの支援や関連イベントなども含まれています。
「都庁の壁に映像を映すだけで48億円」と説明するのは正確ではありません。
それでも、映像制作、機器の設置、運営、警備、広報などに多額の公費が投じられていることから、「生活が苦しい都民への支援を優先すべきではないか」という批判が起きました。
東京都が主張する観光効果
東京都は、プロジェクションマッピングを高い芸術性と技術力を持つ観光コンテンツと位置づけています。
開始から1年間の観覧者数は約52万人、2025年10月には累計100万人、2026年8月には累計155万人を超えたと発表しました。
旅行会社が鑑賞を組み込んだ旅行商品を販売するなど、観光資源としての活用も始まっています。
この数字だけを見れば、誰も見ていない失敗事業とは言えません。
一方、観覧者のうち、プロジェクションマッピングを見るために新たに東京を訪れた人が何人いるのかは分かりません。
新宿に宿泊していた外国人観光客や、都庁周辺を訪れた人が立ち寄っただけなら、その人の宿泊費や飲食費をすべて事業の効果とみなすことには無理があります。
重要なのは累計観覧者数ではなく、事業がなければ発生しなかった新たな消費や宿泊を測定することです。
東京都は経済波及効果を示していますが、どこまでが純粋な追加効果なのか、都民が判断できる形で十分に示されているとは言いにくいでしょう。
2.お台場の巨大噴水「東京アクアシンフォニー」
東京都は、お台場海浜公園に世界最大級とする噴水「東京アクアシンフォニー」を整備しました。
高さ150メートル、横幅250メートルという大規模な噴水で、桜をイメージした演出を行います。
東京都が公表している整備費は約26億4000万円です。
内訳は、検討・設計費が約2000万円、工事などが約26億2000万円。完成後の運営費は年間約2億円を予定しています。
年間運営費には、安全対策費約9000万円、清掃・補修費約3900万円、水質・環境調査費約3300万円、水道料金約1500万円、演出プログラム作成費約1600万円、電気料金約700万円などが含まれます。
10年間、同程度の運営費が続けば、維持だけで約20億円になります。
一般会計ではなくても公的資金
東京都は、噴水の整備費と運営費について、都民税を主な財源とする一般会計ではなく、臨海部の埋立地売却収入などを財源とする「臨海地域開発事業会計」を使用すると説明しています。
そのため、「都民税26億円を直接噴水に使った」という説明は正確ではありません。
しかし、特別会計であっても東京都が管理する公的資金です。
その資金を防災、交通、臨海部の施設更新など、ほかの目的へ使う選択肢がなかったのかという議論は残ります。
会計が違うことは、費用対効果の検証が不要になる理由にはなりません。
年間3000万人は本当に噴水を見るのか
東京都は、噴水の観覧者数を年間約3000万人、毎年の経済波及効果を約98億円と推計しています。
しかし、この3000万人は、入場券や来場者カウンターで実際に数えた人数ではありません。
台場地区と周辺エリアの人流を基にした推計であり、噴水だけを目的に訪れる新規観光客の人数とは異なります。
もともとお台場へ買い物や観光に来た人、近隣施設を利用した人も、噴水を楽しめる範囲の人流として計算される可能性があります。
経済波及効果についても、噴水によって増えた消費と、もともと発生するはずだった消費をどこまで分離できるかが問題です。
実際の来訪者増加、滞在時間、周辺店舗の売上変化を完成後に検証し、推計と比較しなければ、98億円という数字が妥当だったかは判断できません。
3.東京アプリの1万1000ポイント
東京都は2026年2月から、東京都公式アプリ、いわゆる「東京アプリ」を利用した生活応援事業を実施しています。
15歳以上の都民が、マイナンバーカードを使って本人確認を行うと、1人当たり1万1000円相当の東京ポイントを受け取れる事業です。
もともとは、東京アプリの普及促進を目的として7000ポイントを付与する計画でした。
その後、物価高対策として4000ポイントを上乗せするため、東京都は2025年度12月補正予算に450億円を追加しました。
都議会では、当初の7000ポイント分が総額約800億円規模と指摘されています。
追加分を含めると、関連するポイント給付は1000億円を大きく超える規模になります。
東京都の事業の中でも、特に金額の大きい施策です。
ポイントは都民へ戻るため、全額が経費ではない
この事業の大部分は、業者への広告費やアプリ開発費として消えるものではありません。
ポイントとして参加した都民へ還元され、買い物などに利用されます。
そのため、予算全額を「アプリに使った」「業者へ流れた」と表現するのは誤りです。
東京都は、物価高に対する生活支援と、行政手続きのデジタル化を同時に進められると説明しています。
2026年3月時点の都議会答弁では、東京アプリのダウンロード数は約508万件、ポイントを受け取った人は約377万人とされています。
短期間で多数の都民へ支援を届けたという実績はあります。
なぜ無駄遣いと批判されるのか
最大の問題は、生活支援とアプリ普及という二つの目的が混在していることです。
物価高対策であるなら、スマートフォン、マイナンバーカード、暗証番号、複数アプリの操作を条件にする必要があるのかという疑問が生じます。
高齢者、障害者、認知症の人、スマートフォンを持たない人、デジタル操作が苦手な人ほど、物価高の影響を受けていても参加しにくくなります。
逆に、所得が高い人でも条件を満たせば同額を受け取れます。
生活困窮者へ重点的に支援する政策ではなく、公費によって巨大なアプリ利用者基盤を作る政策とも見えるのです。
今後、東京アプリが行政手続き、災害情報、給付金、都政情報などの共通基盤として定着すれば、先行投資として評価される可能性があります。
ポイント配布が終わった後に利用者が離れ、実用的な行政サービスが増えなければ、高額な利用者獲得キャンペーンだったとの批判が強まるでしょう。
4.東京都のAI婚活「TOKYO縁結び」
東京都は、結婚を希望する人を支援するため、AIマッチングシステム「TOKYO縁結び」を運営しています。
本人確認書類だけでなく、独身証明書や所得関係の書類などを確認し、価値観診断を基に相手を紹介する仕組みです。
東京都の公式資料によると、結婚支援マッチング事業の費用は3年間で約3億6000万円です。
2026年度の結婚支援事業全体には約2億500万円が計上されていますが、この金額にはマッチングシステムだけでなく、イベントや相談支援なども含まれます。
批判の中心は、「民間企業が多数の婚活アプリや結婚相談所を運営しているのに、東京都が税金を使って参入する必要があるのか」という点です。
行政が結婚を促すこと自体に違和感を持つ人や、結婚以外の生き方との公平性を問題視する人もいます。
実績が出ているため、単純な失敗とは言えない
一方、TOKYO縁結びには一定の実績があります。
東京都の公式サイトによると、2026年7月末時点の累計入会申込数は約3万8000人です。
2026年7月の報道では、760組が真剣交際へ進み、265組が結婚したとされています。
独身証明書などを行政が確認するため、匿名性の高い民間アプリより安心して利用できるという利点もあります。
したがって、現在のTOKYO縁結びを「誰も使っていない税金の無駄」と断定することはできません。
問題は、行政が運営することで民間にはない効果がどれだけ生まれたのか、結婚数の増加や少子化対策へどの程度つながったのかという点です。
登録者数や成婚数だけでなく、成婚1組当たりの事業費、民間サービスとの重複、利用者の満足度を継続的に公開する必要があります。
5.525億円で取得した旧こどもの城
東京都は2019年、渋谷区青山にある旧国立総合児童センター「こどもの城」の土地と建物を、国から525億円で取得しました。
東京都は、この施設を「都民の城」として改修し、子供の体験活動、生涯学習、創業支援、劇場、ギャラリー、カフェなどを備える複合拠点として活用する計画を発表しました。
改修費として想定された金額は約136億円です。
しかも当時は、長期的に周辺都有地と一体的に再開発する構想もありました。
最短で数年間の中期利用になる可能性がある建物へ136億円をかけて改修することについて、都議会から「短期間の利用に対して高すぎる」と批判されました。
取得後に計画そのものを見送り
東京都は2022年5月、社会状況や行政ニーズの変化、経済的な効率性などを理由に、「都民の城」改修基本計画の実施を見送りました。
525億円で取得し、改修計画を策定した後に、当初の施設としては開業しないことになったのです。
この経緯は、「先に巨額の土地・建物を取得し、後から利用目的を考えたのではないか」「事前の需要調査や長期計画が不十分だったのではないか」という疑問を招きました。
ただし、525億円がそのまま消滅したわけではありません。
東京都は現在も都心の一等地にある土地と建物を保有しています。
施設は新型コロナウイルス対策の酸素・医療提供ステーションなどに一時利用されました。その後は、旧青山病院、コスモス青山などの周辺都有地と一体化した再開発が検討されています。
土地に資産価値がある以上、取得費全額を損失や無駄遣いとするのは適切ではありません。
問題は、取得から計画見送りまでに要した設計、調査、管理などの費用と、長期間十分に活用できなかった機会損失です。
最終的な評価は、今後の再開発でどのような公共的価値や収益を生み出せるかによって変わります。
予算額と実際に使った金額は違う
東京都の支出を調べる際は、「予算額」「契約額」「決算額」を区別する必要があります。
予算額は、その年度に使うことが認められた上限に近い数字であり、実際に全額を支出したとは限りません。
契約額は、特定の事業者と契約した金額です。複数年度にわたる契約や、別の関連経費が存在することもあります。
決算額は、年度終了後に実際に支出した金額です。
また、複数の関連事業を合算した予算を、一つの施設だけに使った金額として紹介すると、実態以上に大きく見えます。
プロジェクションマッピングの約48億5000万円も、都庁舎での上映だけではなく、地域支援などを含む関連事業全体の数字です。
一方、特別会計だから都民と無関係という説明にも注意が必要です。
一般会計、特別会計、基金のどこから支出しても、公的な資産であることに変わりはありません。
本当に問題なのは金額だけではない
行政事業は、赤字だから直ちに無駄とは限りません。
消防、福祉、教育、公園などは、利益を出すための事業ではないからです。
観光施設についても、入場料収入だけでなく、周辺の宿泊、飲食、交通、雇用などへの効果を考える必要があります。
しかし、経済波及効果という言葉を使えば、どのような事業でも正当化できるわけではありません。
もともと東京へ来る予定だった人の消費まで事業効果に含める、施設周辺を通った人を観覧者として数える、将来得られるか不明な効果を積み上げると、数字は大きく見えます。
必要なのは、事業開始前に測定方法を定め、開始後に実績を公開し、当初の予測と比較することです。
目標を達成できなければ、規模の縮小や終了を検討する仕組みも必要です。
誰が決めたのかも確認する必要がある
東京都の事業は、小池百合子知事一人が自由に予算を使っているわけではありません。
東京都庁の各局が事業を企画し、知事を中心とする執行機関が予算案を作成し、東京都議会の審議と議決を経て予算が成立します。
知事には政策を打ち出し、予算案を提出する大きな権限があります。
一方、予算案を可決した都議会にもチェック機関としての責任があります。
「小池知事が勝手に使った」とだけ説明すると、行政組織、都議会、賛成した会派の役割が見えなくなります。
反対に、議会で可決されたから適切だったとも限りません。
どの会派がどの問題を指摘し、東京都がどのように回答し、最終的にどの議員が予算へ賛成したのかまで見ることが、都政を検証するうえで重要です。
5事業をどう評価すべきか
都庁のプロジェクションマッピングには155万人を超える累計観覧者がいる一方、純粋な観光需要の増加がどれだけあったのかは明確ではありません。
お台場の巨大噴水は、新たな観光資源になる可能性がある一方、年間3000万人という推計や毎年2億円の運営費を検証し続ける必要があります。
東京アプリのポイント事業は、多くの都民へ公費を直接還元していますが、生活支援をアプリとマイナンバーカードの普及に結びつける手法には公平性の問題があります。
TOKYO縁結びは登録者や成婚者を生み出していますが、行政が担う必然性と、少子化対策としての効果は別に検証しなければなりません。
旧こどもの城は資産として残っているものの、525億円で取得した後に当初の活用計画を見送った意思決定の経緯が問われます。
まとめ
東京都の“無駄遣い”として批判されてきた事業には、派手で分かりやすい共通点があります。
巨大な映像、巨大な噴水、ポイント配布、AI婚活、都心の大型施設など、知事や東京都の実績として宣伝しやすい事業です。
その一方、介護人材の不足、老朽インフラ、防災、低所得者支援といった政策は、必要性が高くても映像映えしません。
そのため、「都民生活より知事のアピールを優先しているのではないか」という批判が生まれます。
しかし、見た目が派手だから無駄、金額が大きいから不正と決めつけることもできません。
重要なのは、誰がどのような手続きで決めたのか、当初の目標は何だったのか、実際にいくら支出したのか、期待した効果が得られたのかを確認することです。
「経済効果がある」「未来への投資だ」という説明だけで終わらせず、終了後まで数字を追跡し、達成できなかった事業を見直す。
それが、都民の税金を本当に守るために必要な都政監視です。